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それからウオフェに案内されてまた回廊を戻り、神殿中央に位置する巨大な円形ドーム内へ足を踏み入れると、石灰岩のような白い石でできた緩やかカーブを描く丸天井を見上げ、ハーソンは無意識にも感嘆の声をあげる。
「これが、ダナーン人の神の神殿か……海の神と言っていたが、確かに海神には相応しい、海の底にある宮殿を思わすような造りだ……」
いつの時代に造られたものかはわからないが、自分達プロフェシア教徒の大聖堂にも匹敵する…否、それ以上のものともいえる高い建造技術である。
それに青空の映る石塚全体の天井同様、このドーム内も窓がないのに不思議と明るく、香でも焚いているのか? 爽やかな南洋の海を思わす匂いが仄かに鼻腔をかすめる。
「マナナーン・マク・リールは海を司る神であるとともに、神々の族長を務めたこともあるお方です。光の神ルーを養子として育てたりもしていますよ? あちらにある魔法剣もマナナーンがそのルーに貸し与えたこともあるものです」
その見事な造りと荘厳さに見惚れていると、ウオフェはそう言って、樫の木の杖で正面の祭壇の方を指し示す。
「あれがそのマナナーン・マク・リールか……」
彼女の言葉にハーソンが正面へ目を向けると、そこには古代イスカンドリア帝国時代の白い大理石像にも似た、小舟の上に立って両手を広げる、髭面の美丈夫な男性像がそびえている。高さは人の二、三倍くらいはあるだろうか?
また、その前に設置された供物を奉げる台の他にも、神像の左右には瀟洒な絹織物の敷かれた台座が置かれ、その上には燃え盛る炎の飾りが付いた銅色の兜や、金銀の見事な細工が施されたゴブレット(※脚と台座のある大きな杯)がうやうやしく置かれている。
そして、神像の斜め後、祭壇の左奥には、特徴的な十字型の鍔を持った一本の剣が、なぜか拘束されるかのように鎖で壁に飾り付けられていた。
「他の二つもマナナーンの神宝、〝炎の兜〟と〝真実のゴブレット〟です……さ、どうぞ、こちらへ」
ウオフェはそう説明を加えると神像へ一礼し、その脇を登って魔法剣の方へとハーソンを誘う。
「さすが、魔法の武器を作り出すのに長けたダナーン人の神といったところだな……それにしても、魔法剣だけなんとも変わった供え方だな。盗まれないための備えなんだろうが、まるで暴れるから鎖で縛りつけているようにも見える」
彼女に倣って一礼するとハーソンも祭壇へ登り、やはりそれだけ特殊な演出のなされている魔法剣を訝しげに見つめる。
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