Ⅳ 地下の楽園

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「よくおわかりになりましたね。その通りです。盗難防止ということもありますが、この魔法剣〝フラガラッハ〟はこうしておかないと、勝手に飛び回って手が付けられなくなるのです」 執拗なまでに巻き付けられている鎖の様に、冗談半分にも口を突いて出たハーソンのその言葉であったが、するとウオフェは我が意を得たりという様子で、予想外にもそれを肯定してみせる。 「なっ…!? ほ、ほんとにそうなのか?」 「はい。〝フラガラッハ〟はひとりでに鞘走り、投げつければ宙を舞って自ら敵を斬り裂く意思を宿した剣……ですが、持ち主以外の者が用いれば言うことを聞かず、一度(ひとたび)鞘を抜ければ、自らの意思に従って勝手気ままな振る舞いをなすのです。今は神殿の奉納物なのでマナナーンのものということになりますが、実際には(ぎょ)すことのできる持ち主がいないも同然。ですから、いたずらに鞘を抜け出すことのないよう、こうして壁に縛り付けて安置しているのです」  またも驚いた顔を振り向かせるハーソンに、特に不思議でもなんでもないというような素振りでウオフェはその理由を語って聞かせる。 「まさか、そのようにこの世の理を覆す剣が存在するとは……信じ難い話だが、もしそれが本当なら、ぜひにもひとりでに宙を飛び回っている姿を見てみたいものだな……」  古い時代のものにしては錆一つない、柄や鞘に美しい渦巻き模様の施されたその剣をまじまじと見つめ、軽い気持ちでそんな台詞を呟いてみるハーソンだったが。 「いいですよ。お見せしましょうか?」  またしてもウオフェは、さすがに許されないだろうと思ったその願いにあっさりと首を縦に振ってくれる。 「えっ!? い、いいのか? で、でも、言うことを聞かずに手が付けられなくなると……」 「持ち主であるマナナーンの巫女のわたくしでしたら、なんとか鞘に戻すことはできるので大丈夫です。まあ、別にそこまでして見たくないというのであれば、あえて危険を冒すこともないですけれど……」  せっかく願いを聞いてくれるというのに、逆に心配して二の足を踏むハーソンであるが、そんな彼の消極的な態度を見ると、ウオフェもまたあっさり話を引っ込めようとする。 「い、いや! 待ってくれ! そういうことなら話は別だ! だったら是が非にも見せてくれ!」  その反応にハーソンは慌てて手を前に伸ばすと、彼女を引き留めるかのようにして改めてその観覧を頼み込んだ。
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