Ⅴ 暴れ馬の剣

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「はい。一応、この教練場の学長もさせていただいております。こう見えても、影の国〝ダン・スカー〟にある教練場で、ダナーン最強の女武芸者スカーチェ様に武芸や兵法の教えを受けているんですのよ」  思わず口にした彼のその質問に、ウオフェは少々自慢げに胸を張ってそう答える。 「君は武芸のおぼえもあるのか!? とてもそんなようには見えなかったが……」  まだその腕を実際に見たわけではないのでなんとも言えないが、ここの学長を務めているということは、それ相応の能力は持っているのだろう……相変わらず、彼女には何かと驚かされる。 「これより、魔法剣〝フラガラッハ〟の演武を行います。危険ですから、皆さん、この場を離れてください」  自分の尺度では計り知れない彼女の後姿に、何やら心惹かれるものを覚えつつハーソンが眺めている内にも、ウオフェは木の柱の的が建つ場所まで行って、周囲にいる男達――教練場の生徒達に避難命令を出す。 「ふ、フラガラッハを!? ヤバイ! 逃げるぞっ!」 「遠くに離れないと斬り刻まれかねないぞっ!」  すると、その言葉を耳にした生徒たちは一斉に蜘蛛の子を散らすが如く、一目散にその場から逃げ出してゆく……そんなに、その〝フラガラッハ〟という魔法剣は危険なのだろうか? 「ま、これくらい離れてもらえば、犠牲(・・)は出そうにないですね」  ともかくも、避難した生徒達はかなり遠巻きにこの広場を囲み、的である木の柱から数十メート離れた位置にウオフェとハーソンが立つ以外、周囲に人の姿は誰一人として見えなくなった。 「さて、お待たせいたしました。それではいきますよう……フラガラッハ! マナナーン・マク・リールの名において命じます。あの的の木を両断してみせなさい!」  そうして安全が確保されると、ウオフェは両手で抱えていた魔法剣の、柄の方を握っていた右手を放し、手前に掲げるや凛とした声で剣にそう命じる。  と、次の瞬間、剣は本当にひとりでに鞘走り、くるくると竹トンボの如く高速回転して宙を飛翔すると、ウオフェが命じた通り、そのままの勢いで的の木に突っ込んで行った。 「……!」  刹那、眼を見開くハーソンの前で木の柱は横一文字に両断され、大きな音を立てて上部が地面へ落下すると、その鋭利な切断面を余すことなく披露してみせる。
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