Ⅰ 洋上の世間話

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「この前もあんなに激しい戦闘をしたのに、まったく刃毀れもしてませんね」  十字型の(ヒルト)に、古代異教風の渦巻き模様をあしらったその古めかしい柄に対し、反面、新品同然に輝く美しいその刃を見て、なんとはなしにメデイアはハーソンにそう尋ねた。  ふと思い返せば、これまで何度となく彼がその剣で激しく斬り結ぶ姿をメデイアも目にしてきたが、その割には刃を研いだり、鍛冶屋へ修理に出すところを見たことが一度もない。 「ああ、まあ、一応、古代異教の民が造った魔法剣だからな。そこらの剣とは違ってすこぶる頑丈にできているようだ」  その鏡のようによく澄んだ刃の面に金髪碧眼の整った顔を映し、ハーソンがそう答えると傍らのアウグストは、刃毀れしたそこらの(・・・・)剣を見つめながらダンディなラテン系の顔を渋く歪める。  魔法剣――それは、遥か(いにしえ)の時代、なんらかの方法で強力な魔力を宿して造り出された魔法の剣である。  長い時間、このエウロパ世界の規範であるプロフェシア教会は〝魔術〟を悪魔の(わざ)と退けてきたためか? その製造法は忘れ去られ、今の魔術では造り出せない、いわば失われた技術(ロストテクノロジー)となっている。  もっとも、教会も認める昨今主流の魔導書(グリモリオ)を用いた典礼魔術で、召喚した悪魔の力を宿して疑似的な魔法剣を造ることはできるが、どこまでいってもやはり紛い物、その威力は古代のものにまるで及びもしない。  故に現在、目にできる本物の魔法剣は伝製品か、遺跡で発掘されたものだけという大変希少な品であり、ハーソンの持つ〝フラガラッハ〟も、やはり彼が若い頃に遺跡で発見した代物だったりするのだ。 「あ、そういえば、団長がその魔法剣を手に入れた時の話って聞いたことありませんでしたね。いったいどこで、どんな風にして見つけたんですか?」  アウグストの渋い顔は気にも留めず、そんな疑問に捉われたメデイアは続けてそんな質問を自然と口にする。  もと魔女の魔術担当官として、無論、魔法剣に関しても興味がないわけではなかったが、ずっといろいろあって訊きそびれていたのだ。
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