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「そうです。そのバカげた戦をいまだにやめられずにいるのです。ある種、ダナーンの民にかけられた呪いといってもよいでしょう……その宿命づけられた戦いを有利に進めるため、ウルスター、コンハート両陣営とも、より優れた魔法の武器を自分達の側のものにしようとしています。我々マグ・メルの者はマナナーンの意思に従い、中立を保つ誓いを立てておりますが、それはこのフラガラッハや他のマナナーンの神宝についても例外ではありません」
「なるほど。そういうことか……そいつらのものになって戦に利用されるくらいなら、他所者の俺が渡してしまった方がまだマシというわけだ」
これまた呆然自失としてしまうような、俄かには信じ難き驚愕の歴史的事実ではあったが、そこまで聞くとハーソンは、なぜ彼女が自分に魔法剣を渡そうとしていたのか、その理由をすっかり理解した。
「いや、そもそも最初から、俺がこの剣をほしいと言い出すように誘導していたな?」
「エヘヘ…バレちゃいましたか? でも、まだマシというのではなく、ぜひにもあなたにこの剣の主となってほしいのです。我々は外の世界から剣の持ち主となるものが現れるのをずっと待っていました。フラガラッハがマグ・メルからなくなれば、もう、こんなくだらない戦に巻き込まれることもなくなり、マナナーンが目指したような、教練場も戦士も必要のない、真の楽園となることができるでしょう」
さらに、気絶していたハーソンを助けたその時点から、こうなるよう仕向けていたことにも気づいて追及すると、彼女は誤魔化し笑いを浮かべながらその本心を告白する。
「わたくし達は地下へ逃れる際にマナナーンの生み出した呪いにより、このマグ・メルを離れることはできません。だから、これは外の世界に生きるあなたのような方でなければ成し得ないことなのです……いかがですか? わたくし達の待望をかなえるためにも、この剣の持ち主になってはいただけませんか?」
「そうだな……もとより、それほどの力を秘めたダナーンの魔法剣を我が物にしたいというのは正直なところだ。そういう事情であるならば、よろこんでもらい受けるとしよう」
ウオフェのいう〝呪い〟というものの意味はなんとなくしかわからなかったが、わずかに逡巡した後、それが彼女達の助けにもなると確認したハーソンは、その申し出を素直に受けることに決めた。
「ほんとですか! ありがとうございます! ただ、〝フラガラッハ〟の持ち主となるには、一つだけ条件があります」
すると、再び顔色を明るくして弾んだ声で礼を述べるウオフェであるが、続けざま、彼女はそれまでまったく触れなかった、なんとも気になることを口にし始める。
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