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Ⅵ 魔法剣の心
そんなわけで、思いがけずもハーソンは、魔法剣〝フラガラッハ〟に持ち主と認めてもらうため、その剣と闘うことになった。
「――一応、鎖帷子と兜もつけてもらいましたが、〝フラガラッハ〟は通常の鎖でも斬り裂いてしまいます。あまり役には立たないのでくれぐれもお気をつけください」
古代風の甲冑を身に纏い、腰に佩いていた自身のブロードソードを引き抜くハーソンに、〝フラガラッハ〟を胸に抱えたウオフェは他人事のようにそう告げる。
「なんとも他人事だな……ま、当らないようにせいぜい気をつけるさ……というか、無意味ならば、むしろこんなもの脱ぎたいくらいだな」
その言動に渋い顔を作るハーソンであるが、それ以上は避難するでもなく、逆に邪魔そうな様子で鎖帷子の胸元を引っ張ってみせる。
「何でしたら盾もいりますか? 盾ならば多少は防げると思いますが……」
「いや、無用だ。多少、剣には憶えがある……さあ、さっさと始めてくれ」
はじめ話を聞いた時は、あの暴れ馬のような魔法剣と闘うことに多少なりと恐怖を覚えたハーソンであったが、そこは騎士の家の子弟として、彼も幼い頃より武芸の手解きを受けてきている。そうやすやすとおくれをとらない自信はある。
念のため、盾も必要か尋ねてくれるウオフェのその言葉にも首を横に振り、剣を構えると決闘の開始を催促する。
「そうですか? では、いきますよ……フラガラッハ! あなたを自由にします。あなたを求めるかの者と、思う存分、刃を交えなさい!」
その返事を聞くと、少し心配そうな表情を浮かべながらもウオフエェは鞘部分左手に持ち、魔法剣を天に掲げるやよく通る声でそう命じる。
と、次の瞬間、ひとりでに鞘を抜け出した〝フラガラッハ〟はくるくると高速回転を始め、そのまま、ものすごい勢いでハーソン目がけ斬りつけていった。
「うぐっ…なにっ…!?」
瞬間、ギィィィィーン…! と大きな金属音が鳴り響き、ハーソンが握っていたはずのブロードソードは、なぜか宙に舞っている。
向かってくる風車のような強靭な刃に、咄嗟に剣を振るって弾こうとするハーソンであったが、逆に自らの手にした剣の方が、その強烈な高速回転に弾き飛ばされてしまったのだ。
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