Ⅵ 魔法剣の心

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「――痛っっ……こいつは、早いとこ持ち主と認めさせないと、こちらの命も危ういな……」  ベッドに腰かけ、女性神官達に再び〝治癒の豚皮〟を全身に貼ってもらいながら、この厳しい試練についてハーソンはぼやく。 「なるほど……病がないはずなのに、どうしてこんなにも患者が多いかと思ったら、俺のように教練で怪我をするためだったか……」  また、相変わらず診療所内には治療を受ける男達の姿がちらほら見られたが、その理由も今さらながらに合点がゆくと、全身に感じる痛みと疲労感を通して彼は妙に納得した。 「寝る時もこのベッドをお使いください。お食事は食堂の方でとれますので参りましょう」  前回同様、〝治癒の豚皮〟がすぐに効能を示し、治療がすむとウオフェは、やはり神殿に併設された神官のための食堂へとハーソンを連れて行く。 「――旨い! シンプルな料理なのに異様に旨いな。甘さや塩味にも妙に深みがある……ゴクン……ふぅ、このビールも最高だ!」 「お口に合って何よりです。いくらでも増える(・・)ので、遠慮せずにどんどん食べてくださいね」  神殿や診療所同様、白亜の石で造られた清潔感のある大きな食堂で、長い木のテーブルにウオフェと対面する形で腰を落ち着けると、ハーソンは彼女達ダナーン人の夕食を供された。  ダナーン料理……いやマグ・メル料理と言ったものなのだろうか? 素朴な塩味の利いたパンと、焼いた豚肉にリンゴのソースをかけたメインデッシュ、それにビールのような琥珀色の泡の立つ酒である。  食堂に並べられた長机では、他の神官達も離れた位置で幾人かが楽しく談笑しながら食事をしており、どうやら食べたい時に来て食べられるようだ。  さすが、本当に飢えることもない楽園である。 「…もごもご……ゴクン……しかし、あのとんでもない暴れ馬(・・・)に言うこと聞かせられるとは……女武芸者で、教練場の学長でもあるし、君がこの神殿の最高位の神官である理由がよくわかったよ」  脂の乗った豚肉に舌鼓を打ちながら、先刻の〝フラガラッハ〟を操っていた彼女の姿を思い出すと、改めてそのことをハーソンは実感する。
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