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Ⅱ 遺跡の島
「前にも少し話したが、あれは俺がまだテッサリオ家の家督を継ぐ前、まだ古代異教の民の遺跡を旅して巡り歩いていた頃のことだ……」
船長席の机に置かれたハーブティーを一口飲み込み、喉を潤してからハーソンは前置きを口にする。
「俺の父親という人は、良くも悪くも典型的なエルドラニアの騎士でな、今の陛下の祖父母、アスラーマ教(帰依教)徒をエウロパから駆逐し、〝プロフェシア両王〟と呼ばれたエルドラニア女王イサベーリャ一世とその夫君・アダゴン王フェルナンドロン二世に仕えた人物だけあって、信仰心篤い厳格な人だった……もとから歴史や遺跡が好きなこともあったが、そんな父への反抗心も、俺をそんな冒険暮らしに駆り立てたのかもしれん」
「そんなお父さまなのに、よくそのような旅をお許しになられましたね?」
これも初めて聞く彼の家庭事情に、疑問を抱いたメデイアは何気なくそのことをハーソンに尋ねる。
「なあに、祖国と教会のために敵を撃ち滅ぼせる、立派な騎士になるための武者修行の旅だと言って家を出たからな。それに、家督を継ぐまでの間という条件付きだったし、それでこそテッサリオ家の立派な跡取りよと感涙にむせび泣いて送り出してくれたさ」
「そ、そうでしたか……」
「ああ、なんかそれ、御先代っぽいです、その様子が目に浮かびますな」
その問いに、けっこうな親不孝の事実をさらっと悪びれも(なく答えるハーソンに、メデイアは「この人、意外と若い頃不良だったんだな……」と苦笑いを浮かべ、その父親を知る彼の甥でもあるアウグストは、亡き人を懐かしむかのように納得といった様子でうんうんと頷いた。
「そんなわけでエウロパの各地を廻っていたんだが、北方のデーンラント王国にいた時、アングラントやピクトラントがあるアルビトン島のさらに北西、エールスタント王国のあるエリウ島にかつて存在したという伝説の民ダナーン人の話を聞いてな。探検家でもあった伝道師・聖ブレンディンがそのダナーン人の住む島へ辿り着いたという話もあるし、ぜひとも訪れてみたくなった……で、そこまで連れてってもらう船頭として雇ったのが、あのティヴィアスだったというわけだ」
二人の反応を気にすることもなく、ハーソンはそう続けると、閉まった船長室のドアを透視するかのようにして、その延長線上にあるこの船の総舵輪の方へと視線を向ける。
その場所でアルゴナウタイ号の舵をとる羊角騎士団の操舵手こそが、今、ハーソンの言ったティヴィアス・ヴィオディーンなのだ。
彼はかつて北の湖を荒らしまわった古の海賊ヴィッキンガーの血を引くデーンラント人のもと船乗りで、その優れた航海術から、先頃、ハーソン、アウグスト、メデイアの三人で騎士団へのスカウトに行った人物であったりもする。
「さすがはヴィッキンガーの末裔、やつも冒険好きな気質だったこともあり、すっかり意気投合してな、最初の契約ではエールスタントまで送ってもらうだけだったが、気づけばそのまま一緒にダナーン人の遺跡を探すことになっていた。ちょうど、今日みたいに暑い夏の日のことだ――」
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