Ⅱ 遺跡の島

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「……ん? あれか……幽霊が出ると言ってたが、俺が思うにおそらくはダナーン人の王侯貴族が葬られた墓所か何かだ。その事実が長い歴史の中で忘れ去られ、無暗に近づいてはならない、神聖な場所としての記憶だけが残ったんだろう」  ハーソンの言葉通り、そのエールスタントの沖に浮かぶ小さな無人島には、そんな噂がまことしやかに囁かれている。  彼の常套手段として、地元民に土地の伝説や昔話を聞き、それをもとに古代の遺跡を探したり、その遺跡を残した人々の歴史復元を試みたりしているのだが、今回もその手法により、この小島が怪しいと踏んだわけである。  白い一枚の帆布を大きく膨らませ、充分に追い風を孕んだコグ船は真っ直ぐにその小島めがけて海原を突き進んで行く……。 「ありゃあ、ただの島じゃないですぜ! 島というより巨大な塚だ!」 「ああ。俺の読み通りだったみたいだな……」  徐々に黒い島影が大きくなってくると、やがて、それが自然にできた島でないことは二人にもすぐにわかった。  正面から見た様子では、どうやら巨大なまん丸い円の平面形をしているようなのであるが、その海に顔を出した基盤の上にこんもりと盛り上がっている大きな山は、土饅頭ではなくすべて石でできているのだ。  全体が石を積み上げて築かれたものなのか、それとも土山に石を葺いただけか……ともかくも、大小の石を山盛りに積んだような印象であり、今はその隙間から草木が青々と生い茂っているが、明らかに人工的に造られたものであることは間違いなかろう。 「しかし、エールスタントに来て早々、地元民ですら忘れちまってる遺跡を見つけるたあ、若旦那もそうとう運がいいっすねえ」  船尾で舵を操りながら、だんだんに近づいてくるその石造りの島を見つめてティヴイアスが呟く。 「そうだな。もしかしたら、こいつのおかげかもしれない……魔導書『ソロモン王の鍵』に載っている〝水星第四のペンタクル〟だ」  その言葉に、振り向いたハーソンは懐から一枚の金属円盤を取り出すとテイヴィアスに掲げて見せた。 「ま、〝お守り〟みたいなもんだな。旅の途中、ロマンジップ(※流浪の民)の占い師に売りつけられたものだが、あらゆる智恵を授け、秘密の理解を助ける御利益があるんだそうな。いかにも胡散臭かったが、富や栄誉を与えるペンタクルと違って、人気がないから安くしとくというんで何かの役に立つかもと買ってやったんだ」 「へえ、魔導書の護符ですかい。ま、いくら禁書とはいえ、宝探し(・・・)に魔導書はつきもんっすからね。ロマンジップには偽物を掴まされることの方が多いんすが、きっとそれは本物だったんでしょう。やっぱりわあ旦那はツイてまさあ!」  ハーソンの説明を聞きながらその円盤を見つめ、ティヴィアスは感心したようにそう言う。
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