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魔導書……それは神羅万象に宿り、この世界に影響を与えている悪魔(※精霊)を召喚して使役するための方法が書かれた魔術の書である。
プロフェシア教会やそれを国教として報じるエウロパ世界の国々は、「悪魔崇拝に繋がる邪悪で危険な書物」として魔導書の所持・使用を禁じる禁書政策をとっていたが、その反面、〝魔法修士〟のような教会や国の許可を得た者にはその利用を認めるなど、実際には魔導書の持つ絶大な力を独占し、また、自らの権威を高めるための利己的な施策であった。
それ故に、この禁書政策に反抗的な民衆も多く、裏の市場では非合法に魔導書の写本が取引されていたり、もぐりでその魔術を使う者も後を絶たないのが実情である。
かく言うハーソンにしても、そんな違法の魔術の恩恵にあずかっているというわけだ。
「敬虔なプロフェシア教徒の父上が知ったら、卒倒しそうな話だな……さて、どこか船を着けられる場所を探そう。さっそく上陸といこうじゃないか」
厳格なエルドラニア騎士である父の顔を不意に思い出し、ハーソンは苦笑いを浮かべると、眼前に近づいた巨大な石の墳丘を見上げてそうティヴィアスに告げる。
「了解でさあ! でも、ダナーン人の幽霊が化けて出てもしりやせんぜえ? ガハハハハ…!」
その言葉に、ハーソン同様、迷信はあまり信じない性質のテイヴィアスもそんな冗談を口に、愉快そうに高笑いを上げながら船の舵を切った。
それからまん丸い、島自体からして人工物かと疑われるようなそれの周囲を船で巡っていると、やがて、なんとなく整備されたっぽい原始的な波止場の如き場所を二人は見つけた。
無論、天然の地形ではあるのだろうが、そこだけ波止めのように岩場が出っ張っていて、逆に引っ込んだ小さな湾のような窪みが船を泊めるにはもってこいなのだ。
「あそこから上がりやしょう!」
当然、ティヴィアスもそう判断し、クナール船をその湾に突っ込むと、二人は島へ上陸した。
「住んでた痕跡は見られないが、昔は時折、葬送や祭祀のために人が渡って来ていたんだろうな……」
錨を下ろし、手ごろな岩に船を繋ぎ留めるための綱をティヴィアスが結ぶ間に、周囲を歩き回っていたハーソンが誰に言うとでもなく呟く。
島全体が石を積んで築かれたと思しき、なだらかなお椀形の墳丘をしており、住居の跡のようなものはまるで発見できなかったが、この入り江についてはどうにも使われていた感がある。
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