久々のごちそう

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久々のごちそう

 母が()ねて寝室に閉じこもってしまったので、私はあり合わせの食材で料理を作り始める。みじん切りの玉葱と生米を透き通るまでバターで炒めてから炊飯器に移し、そこへ米と同容量のスープに缶詰のサーモンを入れて煮立たせた物を注いで炊飯スイッチオン。  ホーロー鍋に香味野菜の千切りを敷き詰め、ドライハーブ・ブーケガルニ・料理用ワインを入れてガステーブルにスタンバイさせる。凧糸で縛った塊肉の表面にフライパンでこんがりと焼き目を付けてからホーロー鍋に移し、トロ火で蒸し煮に。しばらくすると鍋と蓋の隙間から風味豊かな香りが溢れ出し、家中に拡がる。  その匂いに釣られ、謙称ではなく真の意味での愚弟と父がキッチンに顔を出した。 「うまそうな匂いだな、何の料理だ?」 「お父さんの好きなポットロースト」  私はかき玉スープを作りながら答える。 「ポットロースト! 久しぶりだな」  父は喜色満面だ。炊飯器から出る蒸気に乗って、ピラフの美味しそうな匂いが真の意味での愚弟の鼻腔を刺激する。 「これ、サーモンピラフ?」  真の愚弟は期待に瞳を輝かせる。 「当たり」 「やった! サーモンピラフだ!」   愚弟は反抗期真っ只中の二年前、なぜか親ではなく姉である私を映画『シャイニング』さながらの狂気で殺そうとした。両親に似て知能が低く物の道理をわきまえていないから、このような愚行をやらかしてしまうのだ。  あのとき在宅中だった母だけでも始末してくれていれば、少年刑務所に漫画を差し入れてやるのもやぶさかではなかったのに。「これまでの私への数々の悪行(あくぎょう)に対するせめてもの罪滅ぼし」と最大限好意的に解釈して。  いくつになっても役に立たない真の意味での愚弟である。
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