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僕と俺の始まりとエンディング前
「えー、だからねー、これを①に代入して……」
誰が聞いているのか分からない数学の授業より。
まあ、先生の話が聞こえているという時点で僕は聞いているのだけれど。
時刻は十二時四十五分。
夏も本格的に始まったばかりの八月一日だ。
先生の説明を子守唄代わりに、周りはぐっすりと眠っている。
ふと窓に目をやる。
雲ひとつない快晴だ。
暑い日差しが僕の体を外で待っている。
蝉もけたましい鳴き声で暑さを助長する。
音だけで夏を伝えられる蝉は僕よりよっぽど優秀だ。
喋ることの苦手な僕なんかより。
そんなこんなで授業もあと五分。
あ、先生が少し急ぎ出した。
そこの説明、終わるのかな……?
ああ、でもこっからの五分がまた長いんだよなぁ……。
△△△
「ごはぁっっ!! ……っはぁ、はァ、はァ……」
ど、どうだ……?
すぐさま、俺は腕時計を確認する。
八月一日、十二時四十五分。
「えー、だからねー、これを①に代入して……」
全身の動きが止まる。
あぁ、そうか。
……成功したのだな。
俺はその先生の言葉を聞いた時、心の底から安心をした。
どれだけその言葉を待っていただろうか。
「……おい、お前大丈夫か? 」
先生から声をかけられる。
俺は泣いていた。
「あ、はい……っう、大丈夫っス……」
「んん? ……そうか、じゃあ続き、ってあと五分か!? 」
先生は慌てて授業を再開した。
五分はたしかに長ぇ。
ただ、なんかを成し遂げるにはあまりにも短すぎる。
俺は人類史上最も長い五分間をさっきまで生きてきた。
時間ってやつは馬鹿で、……いや、ここで語るのはめんどくせえな。
兎に角、俺は成し遂げたのだ。
最後に、言わせてもらいたい言葉がある。
「……五分もたってねぇじゃねえか」
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