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「はいはい、分かったよ。それで? 妻は女子社員たちに何て言った?」
俺の質問を待ちかねたように関根の目がメラキラッと光った。
「ほらっ、今年入社したばかりの田中さん、彼女ったら奥さんが目の前に
いるっていうのに、あなたが自分の憧れでどれほど素敵かっていうことを
熱弁して奥さんに向かって羨ましいって言ったのよ」
「あんな素敵な男性を旦那さんに持てた奥さんが私すっごい
羨ましいですぅ。いいなぁ、羨ましい……」
「あげるわよ。
夫を堕とせたら夫をあなたにあげる。
私がいいと言ってる今なら不倫しても慰謝料も取らずにほいほいっ
あげてしまうわよ?
我こそはと思ってる人は、さぁ……どうぞ~」
樋口眞奈の申し出に、その場で話を聞いていた若い女子社員たちは
色目気だった。
そんな中、ただひとりお局の関根槇子だけが眉を顰めていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は当時の女子社員と妻の会話を聞かされ、愕然とした。
当然のように俺を捨てようとするかのようなその妻の言動に。
あれから妻との生活の中では、そんなことがあったなんて感じさせる
ような素振りが微塵もないから、よけいに狐につままれたような
気持ちになった。
俺はいくら考えても心あたりがなく、きっと妻は妬ましく取れる
ような新人女子社員の言葉が疎ましくなって、挑発したのだろうという
結論に達し、日々の暮らしの中で徐々に関根から聞いたこの時の話も
俺は徐々に忘れ去ろうとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
私たちは互いに年収の高い夫婦でおしどり夫婦として
12年間の結婚生活を過ごしてきた。
妻の家族にも気配りしてくれるやさしい夫、尊敬していた夫、
ストイックでアダルトビデオなんて見たことがないという夫。
そんな彼のことを信じもし、とても愛していた……のに。
今までスマホなど見たことがなかった。
たまたま夫が家にスマホを忘れて行った日、私は自身遅出だったことから
好奇心で夫のスマホの中を見てしまい、自分の知らない夫の外向けの姿を
知ることになってしまった。
LINEなどで夫が言葉遊びしている相手は2~3人いるようだった。
下品な話題でモリモリ盛り上がっていて、すごく楽し気な様子が
分かるものだった。
わたしは軽くめまいを覚えた。
もう読むのを……自分の知らなかった夫の姿を知るのを……止めなきゃ
って思うのに、私は止めることができなかった。
その日、職場に病欠の届を出して私は続きを我武者羅 に読み耽った。
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