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 ようやく息が整ったころ、何かが僕の顔に影を作った。  目を開く。  と、そこには麦わら帽子の中の顔。 「うわっ」と反射的に僕は上体を起こす。  見上げると、それはクラスメイトのトキミズさんだった。  Tシャツとショートパンツのような水着姿である。肌の露出は控えめだ。彼女は言う。 「ぐ~ぜんね、ナルセくんも来てたんだ」  ナルセとは、僕の名字である。  ケイスケが身体を起こす。「俺もいるぜ」 「だれ?」首を傾げるトキミズさん。 「なに?!」 「うそうそ、ふふふ」  笑う彼女の後方から、黒い海パンの男の子が手を振った。 「ねーちゃーん、スイカ食べよー」 「あーはいはい」振り返って応える彼女。 「だれ? 弟?」と僕は訊いてみた。 「そう。小3」 「へ~、けっこう歳、離れてるね」 「うん、8つ違い」 「なに? 今日は子守りかよ」とケイスケがからかうように言った。 「まあ、そんなとこね」トキミズさんは軽く受け流すように言う。「ナルセくんもケイスケも、一緒に食べない? スイカ」  ケイスケの方は呼び捨てである。クラスの連中は男子も女子も大抵こいつをそう呼ぶ。担任もだ。 「ああ、食べる食べる」言いながら立ち上がるケイスケである。  僕もふらつきながら立ち上がる。先程の遠泳はかなり体力的に堪えた。もう二度と馬鹿な真似はするまい。  トキミズさんについていく格好で二人並んで歩く。僕はちらりとケイスケを見る。  実はこいつはトキミズさんに好意を持っている。突然こういう展開になったことをどう思っているだろうか?  「おいケイスケ、良かったな」 「あ?」 「トキミズさんと仲良くなれるチャンスだぜ」 「バカ、何言ってんだよ」 「照れんなよ」 「照れて――」ケイスケが僕にヘッドロックをかけてきた。「――ねえ!」 「いてて!」勿論、遊びなので本当に痛いわけではない。 「ば~か、何やってんのよ」トキミズさんが振り返り、呆れ顔でそう言った。  トキミズさんの弟くんはパラソルの下でクーラーボックスを開け、すでにカットしたスイカを取り出している。  海でスイカときたらスイカ割りでもするのかと思っていたのだが、そうではないようだ。  弟くんはトキミズさんに促されて僕たちにあいさつし、スイカを差し出してくれた。  皆で砂浜に腰を下ろしてスイカにかぶりつく。 「よく冷えてるね」と僕。 「美味い美味い」とケイスケ。  種を起用にぷぷぷと、そのためのリズムがあるかのようにして吐き出している。僕もそれに倣った。  四人でパラソルを背に、しばし無言で海を見た。  空の青を鮮やかに映す海面。  白い横長のラインが現れては迫り、砂浜にやさしく打ち寄せる。  現れ――  迫り――  打ち寄せる――  打ち寄せる――  ざざざざ――  ざざざざざざざ――  繰り返し――  繰り返し――
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