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5
今でもあの日のことを思い出すと、奇妙な気持ちになる。
学校で言いふらすようなことはケイスケも僕も、もちろんトキミズさんもしなかったので、あの時だけの出来事である。
そして、この件をきっかけに、ケイスケのトキミズさんに対する思いはすっかり萎えてしまった。
でも僕はというと、このことをきっかけにトキミズさんと親しくなり、6年後には結婚すことになったのだった。
結婚した翌年には女の子が生まれ、その子もこの春に小学生になった。あっという間に一学期が終わり、今日、僕たち家族は三人で海に来ていた。
快晴。
遊びに来ている人はまばらだ。
今、僕たちはひと泳ぎした後のスイカタイムである。
今でも、妻は海に来るとスイカを種ごと食べている。だが、あの日以来、僕は彼女のへそからスイカの弦が飛び出してくる様子を見たことがない。
スイカを食べ終わると、娘は疲れたのか、パラソルの陰ですやすやと眠ってしまった。
娘を挟む形で、僕と妻は黙って海を見た。
青い空を鮮やかに映す海面。
白い横長のラインが現れては迫り、砂浜にやさしく打ち寄せる。
現れ――
迫り――
打ち寄せる――
打ち寄せる――
ざざざざ――
ざざざざざざざ――
繰り返し――
繰り返し――
毎年、この風景。この音。自分がリセットされていく感じが心地良い。
自然と微笑んでいる自分に気づく。
その流れで妻を見る。
シンクロし、目が合った。ただ微笑みを交わしてみた。
潮風が髪を揺らしている。
深く息を吸い込んで、風で肺を膨らまし、それから時間をかけて吐き出す。
日頃のストレスまで吐き出すイメージ。気持ちがいい。
と、どこからか悲鳴が聞こえた。
そちらの方向に目をやると、ゆったりとしたワンピースの女性が海に向かって何かを叫んでいた。どうやら妊婦さんらしい。
沖を見てみる。誰かが溺れているのがわかった。子どものようだ。
がばっと立ち上がる妻。
まさかっ!
彼女は空手の構えのように両こぶしを腰のあたりで握りしめ、仁王立ちになって顔を真っ赤にしていた。全身に力を込めているのがわかる。
このポーズは! 見たことがあるぞ! 見たことがあるぞ!!
「ユージくん!」
「あ、はい!」僕は気づくと立ち上がっていた。
「これ」妻はへそから弦を出し、僕に渡す。「わかってるよね?」
「はは、はい!」
僕のかしこまった返事を合図に彼女は飛び出す! 走る! へそから弦を出しながら!
僕の腕に巻き付いてくる弦の力を感じながらも僕は不思議と冷静だった。
そして呟く。
「ケイスケよ、こりゃあ……引くわな……」
苦笑いを浮かべながら、何の気はなしに一瞬だけ娘の方を見た。
小さな違和感を察知して、そこを二度見、そして凝視!
眠っている娘のへそから、ぴゅるんと何かが飛び出しているのがわかった。
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