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その日、僕は親友のケイスケと海に来ていた。まだ夏休みではなかったのだが、前日やっと期末試験が終わり、気分転換に行かないかとの彼の誘いに乗ったのだった。
快晴。
遊びに来ている人はまばらだ。
準備運動もそこそこに、僕たちは海に飛び込んだ。スカッと気持ちいい。
「沖のブイまで競争しようぜ」とケイスケ。
言われて沖を見てみる。オレンジ色のブイが等間隔でぷかぷかと浮かんでいる。
「近いように見えて、けっこう距離があるぜ」と僕。
「大丈夫だって。ブイにつかまって休んでから、戻ってくりゃいいんだよ。行くぜ! よーい、ピッ!」
ケイスケはそう言ったかと思うと、ブイに向かって泳ぎ始めた。
「あ、きったね!」
こうなったら付き合うしかない。二人で沖のブイを目指すことになった。
最初は二人ともクロールだったのが、少しへばって平泳ぎになる。お互いに顔を出したまま泳ぎ続けているが、やはりブイまでは遠い。少し不安になった。
「やっぱり、けっこう遠いぜ」
「怖かったらおまえは戻ってもいいぜ、俺は行くけどな」
そう言われて岸の方を振り返ってみた。かなり沖まで来ていることがわかる。ここから戻るよりも、ブイまでの方が近いようだ。
体力的には、ブイまで行って少し休んでから戻った方が良さそうだ。
「怖いわけねえだろ」と僕は強がった。
そのまま僕たちは、ブイの方向に泳いだ。
しばらくして、あと5メートルほどのところに来た。
やっと休める。
あと1メートル。
ほぼ同時にブイにしがみついた。
ぶくぶくぶくぶく……
僕たちは二人してブイごと沈み始めた。海水をがぶりと飲み込んでしまう。
「ぷ、は! おい、これ!」
「ああ、ぷふっ、浮力が小せぇ!」
「だめだ、つかまってらんねぇ! どおすんだよ!」
「戻ろう、このまま」
「げ、マジかよ!」
かなり体力を使ってここまで泳いだ。ブイにつかまれば休めると思って頑張ったのだが、当てが外れた。
「おいユージ、頑張れるか!」ケイスケが言う。
「知るか!」
「死ぬなよ、ユージ!」
脚がつりそうだ。
腕が鉛のように重い。
ああ、こいつに付き合うんじゃなかった。と後悔しても後の祭りである。
誰かが岸辺からロープでも放り投げて引っ張ってくれたら楽なのに……そんな妄想が脳裏を過る。
その後、僕たちは、ただただ必死に、でたらめに手足を動かして、どうにかこうにか岸にたどり着けた。
二人して砂浜に身体を投げ出す。
「はあ、助かったぜ」とケイスケ。
「お前のせいだからな!」
息を乱して咳き込みながら、なんとかそれだけ言った。
仰向けに寝転ぶ。
ああ、死ぬかと思った。
太陽が全身に差し込んでくる。じりじり、じりじり――。
風呂に入る時ヒリヒリするだろうな……勝手にそんなことが脳裏を過った。
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