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 ぼたりと白いアイスがアスファルトに垂れる。落ちている間の空中ではまだぎりぎり固体であったであろうその塊は、道路に触れると同時に液体と化した。強烈な温度である。落下するアイスに引っ張られるように僕たちの額からは汗が垂れていた。夏だ。鼻で吸い込む空気すら熱く、夏そのものを摂取している様にさえ思えた。こぼした当人の相田は、落ちたアイスには一瞥もくれず、すたすたと前をゆく。そして豪快にソフトクリームをほおばり、「やっぱりアイスは夏だよな。アイスの美味さに冷たさだって要因としてあるんだから、相対的にそれが大きくなる夏が一番美味いに決まってるじゃん。」と言い、僕に同意を求めるでもなく「冬食べるアイスがーなんて言ってるやつはセンスないよな。」と続けた。僕は概ね彼女の意見に賛成(恒温動物であればそんなに変わらないのでは、などと思いつつも)なので、そうだね、とだけ答えた。海鳥が飛んでいる。彼女は抗がん剤治療を受けている。その副作用で味覚に障害が生じているのだ。そんな彼女にとって「冷たさ」という知覚はものを食べる上で味覚以上の要因になっているのであろう。僕は彼女の発言が本音か、気丈さゆえの自虐なのかも分からず、誰でも出来るような生返事しか出来なかった。辺りが白むような夏日の中、僕は行き先も、彼女に対するスタンスも分からないまま、三歩ほど先を行く彼女の、元気だったころのように揺れるポニーテールに、付いていくことしか出来なかった。
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