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……どう考えても見失うはずなどないのに。立ち位置。髪の色からして……。
だというのにアピールしまくる健気な兄貴よ。
「ひっさしぶりやなああーたん! さーさ! にぃにぃの胸に飛び込んでおいでー!」
両手を大きく広げるのだが……。
――す。
と、こころなしか、温度が下がって感じられる。丈一郎は肘に手をやる。能登は寒い。確かに寒い。――が。
丈一郎の目に映る、綾乃の後ろ姿からは――冷気が感じられる。ひそひそ。ひそひそ。言動や髪の色が目立ちすぎるゆえ、周囲の注目を集めている。そのことに対する、……怒りか。
おっと。スピードがあがった。
荷物持ちの丈一郎は慌てて妻の背中を追いかける。――妻は。
兄の正面に立つや否や、
「だーれがあーたんじゃああ!」
手痛い一撃を見舞った。――容赦ない。食らう兄貴は自身の右手に倒れ込む。冷たい床に斜め座りしたまま、叩かれたほうの頬を押さえると妹を見上げ、
「……なにすんねや。にぃにぃの胸に飛び込んでこいておれゆーただけや――」
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