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 ……鈍感とは、罪だ。彼が、いったいどんな想いで自分のことを封じ込めていたことか――それが唯一現出したのが、『あの夜』のことだったわけで。それにしたって、あのときのわたしは、『仕事でなにかあったのか』とか『片想いの彼女さんに振られたのか』くらいの連想しかできなかった。  彼の力に、ちっともなれなかった。  わたしが、いま、考えるべきことは、そういうことではない。  同情や哀れみを礎(いしずえ)に、誰かを選ぶべきではない。  むしろいまわたしが憐れむのはほかの誰でもない、わたし自身であった。  結局、わたしにはほかの誰のこともなんにも見えていなかった。  四年半の片想いの末、三年間つき合っていたつもりの一条先輩のことも。  その間、好きな女とずっと友達関係で我慢し続けていたけいちゃんのことも。  変わるならいましかないのだろう。  それは、直感ではなく、確信だった。  * * *  バスルームから出てきた彼は、わたしの姿を認めると白目を大きくした。 「綾乃――おまえ……」 「けいちゃん……」  ずるいのかもしれない。  卑怯なのかもしれない。
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