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やっぱり、兄はすごい。僕は目をぱちくりさせた。犯罪はダメです、法律を守りましょう!そうみんなに教え込めば、それだけで犯罪は減らせる。そんな短絡的な考えではなく、もっと広い考えで世界を見ている視点が流石だと思う。
そう考えると、僕がちょっとだけ軽んじていた“教師”という選択を兄がするのも、悪くないことであるのかもしれなかった。犯罪者を取り締まるより、犯罪者にならないようにみんなの相談に乗って、犯罪の芽を摘むことができるのが教師という仕事なのかもしれない。子供の家庭に異変があれば、一番最初に気づくことができるかもしれない仕事でもある。
「……すごいな兄ちゃんは」
僕は窓際に寄りかかって呟く。大気汚染が少しずつ改善傾向にあるためか、今はこの国の都会でも星はよく見える。残念ながら僕が見ている今、再び空気を読んで流れ星が流れてくれる気配はなかったが。
「僕も兄ちゃんみたいになりたい。誰かを助けるヒーローになりたい」
子供じみた夢だ、と自分でも思う。僕ももう十二歳だ、幼い頃に見ていた戦隊ヒーローの主役に自分がなれるだなんて流石に思っていない。
それでも、ヒーローに近い仕事が現実に存在していることは知っている。
むしろ、人を助けることのできる仕事をしている人達は、みんなヒーローなのかもしれない。火事を対処してくれる消防士、天災が起きた時真っ先に動いてくれる自衛隊、警察や教師も誰かを助けることのできる素晴らしい仕事だ。このまま身体があまり大きくならなかったら、力を使う仕事は難しいのかもしれないけれど。それでも思うのである。
自分も男だ。誰かを守るような仕事ができる、そんな大人になりたいと。
「買いかぶりすぎだって、裕太」
相変わらず兄は、からからと笑っている。
「それに、誰かを助けられる仕事っていうのには、縁の下の力持ちも含まれるんだぞ。俺達が毎日食べる御飯を売ってくれるスーパーの人、美味しいものを提供してくれるレストランの人、トラブルで困った時に対応してくれる事務のお姉さんもみんなみんなヒーローだと俺は思う。だから、心配することなんかない。裕太が就こうとしている真っ当な仕事は、みんな誰かのヒーローになれるものなんだからな」
「……そういう考え方ができる、兄ちゃんが好き」
「可愛いこと言ってくれるじゃねーか。俺も裕太が好きだぞー」
裕介は僕を褒める時、額の中心を人差し指でぐりぐりする。兄の独特の癖だった。それをしてもらえると、僕はなんだか嬉しくて、当たり前のように笑顔になれるのである。
少し不思議な法律のある、とても平和な世界。
この時僕は自分の住むこの国を、そういうものであると信じてやまなかったのだ。
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