闘う新皇

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闘う新皇

岩井(茨城県板東市)の将門の館にて。 「殿、京から御大を『新皇』と呼ぶそうで。まことにめでたきことであります」将門の側近・多治経明(たじのつねあきら)はそういって夕食の宴で将門の盃に白酒をついだ。 「ふむ。ここまで来たらもう引き下がれん。この私を捉えようという朝廷(天皇側)とはもう決別じゃ。これからは新しい国をこの東国に作るしか他に手立てはない」将門は意気揚々として盃を口へ運んでいった。 「して、私の職は何になるのでございましょう?」経明は少し遠慮しながらも低い声で問うた。 「ふむ。そちは上野(こうずけ)の方に明るいであろう。上野守にするとしよう」将門は機嫌がいい。 「ははあ、ありがたき幸せ」経明は頭を下げた。 「まずは貧しき農民には租税を改めるとよい。さらに困っている民には米を放出して粥でも馳走させるがよい。よき支配者は民の声を聞いて、信望を得てよき国となるのじゃ」将門は顎髭を撫でながら空いた盃を経明に仕向ける。 「まことに仰せのとおり。民はよき支配者がいてこそ米を差し出すというものです」経明は将門に酒を継ぎ足し、自分の盃も飲み干した。 「そもそもじゃ、いまの朝廷は腐っておる。藤原氏が朝廷(天皇家)と結びついて以来、京の貴族はみな藤原じゃ。我のような桓武天皇の血をひく王子は掃いて捨てるほど、おるのじゃ、よほどの功績を得るか、金銀を積み重ねるか、そうしないと官位にはつけないのだからな」将門は言った。 「京では立派な着物を着た高貴な貴族が毎日遊びほうけて暮らしておる一方、このような京以外の国には出世から外れた国司、郡司が送られて、地元民から大量にコメを搾取し、好き放題な生活をしておりまする。いまこそ将門様のような方があたらしい制度を基に京とは異なるまつりごとで、この板東の国を治めるべきでございましょう」経明はそういって将門の盃に酒を継ぎ足す。 「うむ。ここへきてはもう振り返ることは出来ぬ。まあ来るべき時には朝廷から軍が押し寄せてくるだろう。その時は獅子奮迅。暴れてやろうじゃないか」将門は意気込んだ。
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