デートの日。

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出発の時間になっても起きてこない彼。 いつものことである。 わたしの恋人は朝にめちゃくちゃ弱いのだ。 いや、弱いどころではない。 負けている。 「ねぇ」 「んー…?」 「おーきーてー」 「んー…」 「デートしよってったのそっちなのに」 「あと5分…」 「もー」 ちょっと呆れているが怒ってはいない。 それは慣れと愛おしさによるもの。 いつも大人な彼がわたしよりこどもになるのはこの時くらいで。 いつも甘やかしてくれる彼が甘えたになるのが可愛い。 「5分経ったよ?」 「んん」 「もうお店はじまってるよ?」 「布団が…離してくれない…」 「ふふふ、こどもか」 「んーこっちおいで?」 「わ」 頭を撫でていた手をパシッと取られグイっと引っ張られた。 そのはずみで彼の横に勢いよく転げ込む。 ぎゅっとわたしの腰に巻きつく彼の腕。 なんだか暑くなってきたのは夏だからかな。 「ちょっと…」 「一緒に寝よ?」 「デート…」 「あと5分だけ」 「さっきもそう言った…」 「最後の5分」 「もぅ…」 身動きが取れないわたしはそっと目を閉じた。 決して彼に絆されたわけじゃない。 だけど彼が離してくれないから。 そうして次に目を開けると目の前で優しくほほ笑む恋人の姿。 「おはよ」 「お、はよう…って今何時?」 「15時くらいかな」 「…えっ!もうお昼過ぎてるじゃん…っ」 「そうだねぇ」 「なんで起こしてくれないの!」 「寝顔可愛かったから」 「っ…ばか」 「あは、怒ってるのも可愛い」 そんなこと言われたらもう何も言い返せない。 彼は大人でいつだってズルい。 「デート…楽しみにしてたのに…」 「ごめんね?じゃあおうちでデートしよっか」 「へ?」 「お店のとは違うかもしれないけど俺がパンケーキ焼いたげる」 「けーくんが…?」 「そ、果物もあるし意外と豪華なのできるかも」 なにそれちょっと魅力的。 だいたい料理が苦手な彼がわたしのためにそんなことを思いついてくれたのがうれしい。 「それにさ、ここなら誰も見てないからあーんしてあげられるよ?」 なにそれだいぶ魅力的。 外でいちゃつくのは苦手だけど密かに憧れていた。 ドラマ見ながらいいなって呟いたの覚えててくれたのかな、なんて。 「どうですか?お姫様」 「抱っこ…」 「ん、」 手を伸ばせばそのまま抱えてリビングまで運んでくれた。 ちょっと待っててねって本当にパンケーキ作ってくれるみたい。 エプロン姿の彼はなかなかにレアでかっこいい。 大人気のパンケーキ屋さんもそのあとのショッピングも海も夜景も全部お預け。 だけどそれでもだいすきな彼との時間にどうしようもなく頬が緩んでしまうのだった。
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