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俺と初デート
今日は夏季休業一日目。ほぼ毎日営業していたけれど、お盆にかこつけて三日間店を休むことにしたのだ。園子さんは毎日店に顔を出してくれるが、一応俺は仕事中だからほとんど話すことはできない。だから、園子さんのミルクティーだけは俺が運ぶ。彼女が角砂糖をミルクティーに溶かして一口飲むところまで見届ける。そして、彼女がふにゃりと笑うその瞬間こそが、俺の至福の時。それさえあれば毎日の疲れなんて吹き飛ぶ。
だけど、俺だってたまには休みたい。園子さんと一日中ふたりで過ごしたい。念願叶ってやっとデートの約束を取り付けた。「楽しみです」と微笑んだ園子さんの顔を俺は何度だって目蓋の裏に思い浮かべることができる。油断するとすぐに緩んでしまう頬を気にしながら、待ち合わせ場所に向かう。綺麗なまあるいシルエットの頭が足音に気づいてこちらを振り返った。レモンイエローの服を着た今日の園子さんは、夏の陽射しより眩しい。彼女は俺の顔よりいくらか下のほうを見つめて、笑いかけた。
「あら、優香ちゃん」
「きゃー、園子さん! 奇遇ですね」
「……鏑木。どうしてここに……」
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