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咳払いをひとつして、鏑木は「このレモンシャーベットをふたつください」と言った。
「ふたつ? 鏑木は食べないのか?」
「いいです。あたし用事思い出しました。もう帰らないと。店長、ごちそうさまでした」
「え、デートプランは?」
「そんなの、ふたりで話し合って決めてください」
鏑木は「ごゆっくりどうぞ」とにこやかに微笑んで席を立った。軽やかな足取りであっという間に自動ドアを潜り抜け、じりじりと照りつける陽射しの中に消えていく。
「えっと、どうする? とりあえず俺あっち側座ろうか」
腰を上げかけた俺の腕が園子さんに引っ張られた。
「園子さん、どうしました?」
「あ、あれ? なんでもないです」
ぱっと手を放した園子さんは、反対側の席に座るよう促した。
「たとえば、わたしが店長、じゃなくて、大輔さんにごはんを作るのはどうでしょう」
レモンシャーベットを口に運んで、その爽やかさに店でもこういうの出したいな、なんて考えていたら、思いがけない提案をされた。せっかくふたりきりになれたというのに、どうして俺は店に出すメニューのことばかり考えてしまうんだろう。
「それはすごくいいですね。園子さんの料理、食べてみたいです」
「あ、いや、大輔さんが作ったほうが絶対美味しいのはわかってるんですけど。たまには……どうかなって」
「俺は大歓迎です。めちゃくちゃ嬉しい」
園子さんが俺のためにご飯を作ってくれるだなんて、嬉しすぎるだろ。もったいなくて食べれないかもしれないな。
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