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振り返ると、そこには鏑木優香の姿があった。何が『奇遇』だ。俺のこと尾行してたに違いない。いつの間にか園子さんはあいつのこと『優香ちゃん』なんて呼ぶようになってるし。俺のことはいつまでも『店長さん』としか呼んでくれないのに。ああ、鏑木よ。ニヤニヤとしたその表情、何か企んでいるんだろう。勘弁してくれ。
「そりゃあ、店長。初めてのデート、あたしが指南してあげようと思ったんですよ。感謝してください。ランチ奢ってくれていいですよ」
ちろりと舌を見せる鏑木に苛立ちを覚えたが、園子さんとこうして付き合うことができたのはこいつのおかげとも言えるから強く出れない。
「それで? どこ行くんです?」
「……えっと」
園子さんと鏑木が期待に満ちた目で見つめてくる。俺は体中から汗が噴き出しそうだった。初めてのデートにただただ浮かれていて、肝心の内容を考えていなかったのだ。園子さんとの初めてでもあるけど、俺にとっては人生初のデートでもあるわけだ。それにしたってうっかりにもほどがある。
「え? 店長、まさか……」
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