レモンイエローの憂鬱

わたしと優香ちゃん

「そういえば、まだ『店長さん』なんて呼んでるんですね。園子さんって店長の下の名前知ってるんですか？　あ、あたしは知らないです。興味ないので」
「え、知らない？　あれ、そっか。そうだっけ」

　店長さんはうーんと唸っていた。知ってる、知ってるよ。

「大輔……さん」

　小さな声で呼ぶと、きょとんとした顔をされた。堪らず彼の腕を掴む。

「大輔さん、もっとこっち来てください」

　嬉しそうにわたしのそばに寄ってくる。ぴたりとくっついた肩から体温が伝わってくる。なんでこんなに極端なんだろう、この人は。ふと顔を上げると、優香ちゃんがスマホを構えている。シャッター音はしなかったから安心していたら、ポコンと音がした。

「今回は動画にしてみました。もう、ふたりとも可愛すぎます」
「もう、優香ちゃん！」

　消してもらおうと思ったら、店員さんが料理を運んできた。鉄板に乗ったステーキは食欲を誘う匂いを漂わせている。わたしはアラビアータを目の前にして、後悔した。どうして今日パスタにしちゃったんだろう。これ、絶対はねるやつだ。少量ずつフォークに巻いて、ゆっくりと口に運ぶ。