9人が本棚に入れています
本棚に追加
茫洋とした白い闇の中に、波の音が響いている。
海が近いようだった。
「ただいま。またきちゃった」
後ろから彼女にそう声を掛けられ、彼は振り向いた。
そして歓声を上げながら、彼女を抱きしめる。
いつの間にこんなに好きになったのだろう。
「会いたかったです。あなたが誰でも、誰でもなくても、俺は――」
その後を、なんと続ければいいだろう。
ほんの刹那、それを考えた時。
暑さの中で、彼は目を覚ました。
昼日中の自分の部屋の畳の上、タオルケットを腹にかけている。
体ごと横を向いて午睡していたせいで、下側にした右目から、涙がこぼれた。
セミの声が響いている。
部屋の中には他に誰もいない。
夏休みが今日、終わろうとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!