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昼過ぎに、家へ戻った。
前触れのない帰宅に、居間の母と妹が、また慌ててテレビのチャンネルをワイドショーに変えた。
徹は困りながら小さく吹き出し、
「いいんだって。甲子園観たければ、観てくれよ」
そう口にした時、徹の目がテレビに釘付けになった。
生放送の画面一杯に、ここのところ恋愛関係のスキャンダルで報道を賑わせていた、新進女優の殿田季四菜の顔が大写しになっていた。
最近では最も注目されている女優の一人なだけあって、報道陣に追いかけられながら、飄々と東京のどこかを歩いている。
そうか。戻ったんだな。と徹は胸中でひとりごちた。
『この夏はどうされてたたんですか?』
若い女のリポーターにマイクを向けられ、季四菜が
『ま、ちょっと海とか』と答える。
『誰とですか?』
一人だよ、と徹が声には出さずに告げる。しかし。
『気の合う男友達ができたので、その人と、二日間ほど』
ええー、と妹が嬌声を上げる。
『また次、いつ会えるかは分からないんですが。気の合う、戦友のような人です。彼と共に、私も頑張ろうと思います』
そこで、季四菜はカメラ目線になった。
彼女がわざとらしく見せた左手に指輪がないことに、徹は気づいた。そうか。決めたんだな。
『友よ。大変なことは、たくさんあるよね。でも私たちの人生は、まだまだ続くらしい。いつかまた、内緒の場所で会いましょう』
はい、と徹は胸中でうなずきかけたが。
――待て、思い上がるな。俺のことを言っているとは限らない。芸能人だぞ、交友関係は相当広いはずだ。落ち着け――
『その時までお互い元気で。君の方こそ、ずっと私のことを考えてくれていたよ、唐沢徹くん』
「おい!?」
思わず悲鳴を上げた徹を、絶句した母と妹が振り返る。
ほどなくして、徹のスマートフォンが、友人知人一同からの着信に、けたたましく鳴り始めた。
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