廃プールと海とガラスとガラス

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 夏休みが今日、終わろうとしていた。  部屋の中には他に誰もいない。  セミの声が響いている。  体ごと横を向いて午睡していたせいで、下側にした右目から、涙がこぼれた。  昼日中(ひるひなか)の自分の部屋の畳の上、タオルケットを腹にかけている。  暑さの中で、彼は目を覚ました。  まるで夢を見ていたような夏だった。  悪夢と、そうではない夢を。  昨日の夜、一人で例のプールに行ってみると、それまではなかった、シーグラスを詰めた小瓶と、ラムネの空き瓶が、あの日二人で腰かけたそれぞれの飛び込み台に、一つずつ置かれていた。  それを置いた本人の姿は見当たらない。  いつの間に来たんですか、ていうか不法投棄は嫌いなんじゃないんですか、と徹は笑った。  必ずこれを見つけるが来るはずだと、信じてくれたのだろう。  毎日のように徹がここを訪れているのを見透かされたようで、恥ずかしくもなった。  もう一度、面と向かって会うことがあるのかは分からない。住む世界が遠いことは、徹にも分かる。  それでも。  机の上には、角が取れ、既に原形からは程遠いシーグラスの小瓶。  それに、手が届かないから憧れる、ラムネのビー玉。  失ったものと、訪れたもの。  きっといつまでも、自分は、この夏を心の中で繰り返すだろう。  徹は寝返りを打った。  言葉にできない涙が、また一粒こぼれた。  窓枠に四角く切り取られた眩しい空が、その向こうでどこまでも青く広がっていた。 終
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