第46話

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第46話

 与えられる悦味に陶酔していると、幸希の手がいつの間にか胸から離れ、腰回りをなでていた。 「は……」  艶を孕んだ吐息が、花菜実のくちびるからこぼれ落ちた。熱い手が下腹部に近づいてくるたびに、花菜実の心臓の音も大きくなっていく。 「……怖い?」  幸希が花菜実の瞳を間近で捉えて尋ねる。彼女はぶんぶんとかぶりを振った。 「こ、わくはない……です。ちょっと、緊張しちゃって……」 「奇遇だな、僕も緊張してるよ。……花菜実を傷つけないか心配で」  そう言って花菜実の頬に触れる幸希の指先が、かすかに震えているような気がした。彼が自分を大切に扱おうとしてくれているのが、痛いほどよく分かって。  幸希の手の上に自分のそれを重ねると、花菜実はうっすら笑んだ。 「ありがとうございます。……私は大丈夫ですから、幸希さんの好きなようにしてください」  こうしてほしいと願えるほどの経験など何一つない花菜実。素直に身を委ねることだけが、唯一彼にしてあげられることだった。  幸希は大きく息を吐いた。 「僕のことを甘やかさない方がいいと言っているのに、花菜実は……」  クスリと笑うと、幸希は花菜実のパジャマのズボンに手をかけた。そのまま下にずらし、彼女の脚から抜くと、そっとベッドの下に落とす。ブラとセットで買ったショーツは、真新しい輝きを帯びている。彼はその上縁に指をゆっくりと差し入れた。 「あ、あの……っ」 「ん?」 「幸希さんは……脱がないんです、か?」  花菜実が下から幸希の顔を覗き込むようにして問う。 「……そんなに早く僕の裸が見たい?」  ほんの少し意地悪く尋ねられ、花菜実の頬がかぁっと熱くなる。 「そっ、そうじゃなくて! ……私だけ裸なのがすごく恥ずかしくて。せめて上くらいは……」 「なるほど。上くらいは……ね」  幸希はルームウェアのトップスに手をかけ、そのまま一気に脱いだ。彼の上半身が花菜実の目の前に晒される。 「これでいい?」  水泳をしているだけあって、しなやかできれいな身体つきだ。花菜実はわずかの間、見とれてしまった。 「……はい」  自分で言っておきながら、結局は羞恥で目を逸らしてしまう。  幸希は花菜実の頭をなでた。そしてその手を再びショーツの中へと侵入させる。秘裂の表面の柔毛に触れられ、彼女の身体がビクリと揺れた。 「ここも……髪と同じ色?」  幸希が小声で尋ねた。花菜実の髪の色が暗めの煉瓦色なのを受けて出た言葉なのだろう。 「え、た、多分……」 「……確かめようか?」  幸希はショーツに入れた手をそのまま下ろす。それをズボンと同じように抜き取ると、同じようにベッドの下に落とした。 「あ……」  真裸にされた花菜実は、面映さで脚をすり合わせた。身体を包む布をすべて取り払われた後は、心許ない気持ちで全身が覆われる。  先ほどまで隠されていた部分に、幸希の指先が触れた。 「……花菜実は自分で気づいてないかも知れないけれど」 「え……?」 「すごくきれいな身体をしてる」  身長はさほど高くはないけれど、色白で胸とくびれがしっかりあり、脚も長い――幸希がそう褒めてくれた。花菜実は頬を染める。 「あ、ありがとうございます……それは祖母の遺伝かも、知れないです」 「ここも」  赤みがかった和毛に分け入る彼の指先。 「――遺伝かな。やっぱり髪の毛と同じ色、だ」  そう囁いて、奥の透き目に指を埋める。くち、と湿った音が立った。 「っ!!」  今まで味わったことのない衝撃に、花菜実の全身がビリリと痺れて震えた。 (な、に……今の……)  幸希の指がさらに深く埋められて前後に滑る。 「っ、ぁ……っ」  小さくではあるが、声が上がった。脚は彼の行為を享受するように自然と開き気味になっていく。潤いをまとったのか、指はことさら滑らかに動き出した。  花菜実の息が荒くなり始める。 (声……出ちゃう……やだ……)  どうしても声が口をついて出そうになるので、歯を食いしばる。  幸希は脚の間に手をねじ込み、本格的に愛撫を施し始めた。秘裂の表層はすでに十分に潤びていて、彼の指を濡らして止まない。  襞をなぞられるたびに、ひくひくと身体は動いてしまうけれど、声は出すまいと、花菜実は口元に力を入れ続ける。 「花菜実、声出していいよ。誰にも聞かれたりしないから」 「……っ」  花菜実はふるふるとかぶりを振る。 「どうして?」 「……だ、って……恥ずかしいし、」  それに、自分がはしたなく思えてしまうから――花菜実は消え入るような声でそう告げた。 「花菜実……僕のことが好きなら、我慢しないでほしい」 「え」 「あまりに何も返って来ないと、自信がなくなる。気持ちよくないのか、って」  思い切り眉尻を下げ、幸希が申し訳なげに言う。 「あ……」 「素直に反応してくれると、僕は嬉しい」  そうお願いされ、躊躇ったように視線を彷徨わせる花菜実。寸時の後、真っ赤な顔で、こくん、とうなずいた。 「ありがとう」  幸希は優美に笑み、そして花菜実の秘部に埋めた指でゆっくりと円を描き始めた。 「っ、あ、」  触れられたところから、甘気が四肢へと走り、蜜口が震えた。指が秘裂をかき回すたびに蜜はあふれ出る。音には艶が増し、さらにはくちゅくちゅという粘着質なものへと変わっていった。  全身が今まで味わったことのない感覚で満たされている。それはやっぱり甘美で――おそらくこれが気持ちがいいということなのだろう。 「ゃ……、あん……っ、あ、ぁ……っ」  快感にまとわりつかれた身体を持て余し、どうしたらいいのか分からず、思わず枕をつかんでしまう。 「……やっぱり、この間花菜実の部屋に泊まらなくてよかった」  安堵の息とともに、幸希が言葉を吐き出した。 「ぁ……え?」 「あの日、万が一にも花菜実を抱いてしまっていたら、この可愛い声をあいつらに聞かれていたかと思うと、僕は自分が許せなくなっていただろうから」 「あ……、そ、そ、いえば……」  あの日は二人の部屋での会話がすべて盗聴されていた。だからもしふたりがこうしてことに及んでいれば、その音や声はすべて裕介たちに拾われていたのだ。  花菜実の背筋がゾクリとすると同時に、安堵の気持ちが全身に広がった。 「ちなみにここは大丈夫だから。興信所から報告が来た後、念のため盗聴器がないか徹底的に調べた。花菜実の部屋も後でちゃんと調べておこうな」 「は、はい」 「そういうわけだから、心おきなく可愛い声を聞かせて」  幸希は濡れた指で襞を幾度か往復したかと思うと、その上の閉ざされた秘芯に触れた。 「あぁっ、や……っ」 「ここ、嫌?」  蜜をまとった指先で何度もそこを擦りながら、幸希は彼女の顔をうかがう。 「あ、あっ、ん……っ、そ、れ、だめぇ……っ、」  その行為を止めさせたいのか、花菜実は彼の腕を両手でつかんだ。 「だめ? 気持ちよくない?」  花菜実はぎゅっと目を閉じて首を横に振る。 「ぎゃ、く……です、よすぎて……何だか、怖い……」 「さっきは怖くない、って言ってたのに?」 「っ、」 「それに、僕の好きにしていいとも言った」 「ぅ……」  言葉に詰まってしまう花菜実。確かに怖くはないと思ったし、幸希の好きにしていいと、身を委ねたつもりだった。けれど、与えられた快感の予想外の気持ちよさに、 (私の身体、どうなっちゃうの……?)  と、未知の感覚への畏怖が湧いてきてしまった。それを素直に伝えると、 「大丈夫だよ、死にはしないから。……もしかしたら、天国には行くかも知れないけど」  幸希が意味ありげに笑う。 「もう……死んじゃったら、責任取ってくださいね……?」  花菜実は彼の腕からそっと手を離した。
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