第47話

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第47話

 内腿の奥に捩じ込まれた指先が再び動き出す。襞を広げるように愛撫されて、新しい蜜があふれてしまう。 「ん……っ、ぁ……」 (……ど、うして……?)  確かに気持ちよさを植えつけられて、身体は反応している。けれど、ついさっき幸希が触ってくれた部分ほどの強い快感は訪れてはくれなくて。何となく……もの足りない。  あの場所に触れてほしい――浅ましくも、そんなことを思ってしまった。  彼の指は時折そこを掠めてきて、都度、ビクリと身体は揺れ動く。それを何度も繰り返され、だんだんともどかしくなってくる。 「ぁ……」 「ん?」  きれいに笑う幸希。なんだかひどく楽しそうなのが、少しだけ憎たらしい。 (もぅ……っ)  花菜実は軽く眉をひそめて彼を睨めつける。 「い、じわる……っ」 「……何が?」 「そうやって、わざと……」 「うん、わざとだ」 「っ」  さらに笑みを美しく輝かせながら、幸希は彼女の瞳を真正面から見つめる。焦らしているのだと堂々宣言され、思わず拗ねたようにくちびるを尖らせる。 (ひ、開き直ってるんだから……っ) 「名前」 「え?」 「呼んで」  この状況で名前を呼ぶことに何の意味があるのだろう? と思いつつも、花菜実はおずおずと口の端に彼の名を乗せる。 「……幸希、さん?」 「……そうじゃないだろう?」  途端、幸希がスッと目を細めた。笑ってはいるが、ほんの少しだけ威圧感を覚える。  その間も指はゆっくりとぬかるみを探るように蠢いていて、ぬち、と淫らな音を立てている。当然のように反応を見せてしまう花菜実。 「ぁ……は、ぁ……」 「花菜実の方が意地悪だ……ずっとお願いしているのに……この期に及んでまだ……“さん”をつけるんだから」  今度は幸希が拗ねる番のようだ。眉をひそめながらも、ちゅ、ちゅ、と花菜実のくちびるにキスを落としていく。 「だ、って……私、年下だから……っ、あっ、やぁ……」  言葉の途中でまたそこを掠められて、蜜口がきゅっと緊張する。 「花菜実……今だけでいいから」 「……っ」  切なく眉尻を下げて色づいた瞳を揺らす幸希を見たら、心臓が大きく高鳴った。  少しの間をおいて、花菜実は口を開いたり閉じたりし、それから―― 「――幸希……」  両の目を潤ませながら、震えるくちびるで囁いた。か細い声で紡がれた名前に、幸希は一瞬目を見開いたかと思うと、 「……やばいな」  ひとりごとのように吐き出し、花菜実の視界から姿を消した。 「……え?」  刹那、花菜実の脚が大きく開かれ、その奥に強烈な快感が走った。 「あぁっ、ゃ……っ」  思わず身体を反らせてわななかせる。飛びそうな意識を必死に手繰り寄せて視線を下へとずらすと、幸希が花菜実の下腹部に顔を埋めているのが見えた。  確かに触れてほしいと願ってはいたけれど、いきなりそこを舐められてしまい、すごく気持ちがいいだとか、脚を広げられて恥ずかしいだとか、そんなところ汚いからやめてだとか――いろいろな感情が交錯していて、どんな声を上げたらいいのか分からなくなる。  おまけにぴちゃぴちゃと淫らな音を立てて舐られるから、それで耳まで愛撫されているような気になって、頭の中が麻痺してしまう。 「んっ、ぁ、だ、め……っ」  思わず幸希の髪をくしゃりと握る。 「……こうしてほしかったくせに。可愛いな、花菜実……ここも、すごく可愛い」  そう言って彼は花菜実の花芯に吸いついた。 「やぁっ、だめだめ……っ、は」  小さくても繊細なまでに敏感なそこは、幸希が与える刺激を余すところなく受け入れ、それを花菜実の全身へと送り出す。  いやいやと首を振り、彼女は初めての快感にひたすら耐えた。 「花菜実からどんどんあふれてくるから、顎まで濡れてしまうな」  幸希は自分の口元を手の甲で拭う。 「や……そんなこと、言わないで……っ」 「本当のことなんだから、仕方がないだろう?」  くつくつと笑いながら、彼はなおもそこを舌でいたぶるように擦った。即座に跳ね上がる花菜実の肢体。 「あんっ、あっ、ぁ……っ」  いつの間にか花芯を剥き出され直接触れられているけれど、正直、花菜実には何をされているのかすら分からなくて。ただただ、幸希がすることを享受するしかない。  少しだけ痛いような、けれどそれを弾き飛ばしてしまうほどの強い快感に襲われ、息が止まる。 「は……っ」  幸希は十分に潤した指先で、そこを愛でるように撫でて。かと思うと、水音を立てながら強く吸ってくる。そうされるたびに、新たな蜜液が湧き出してお尻の方にまで流れ落ちてくるのが、自分でも分かってドキリとしてしまう。 「あっ……やっ」 「これ……嫌?」  快感を与えられながら先ほどと同じことを問われ、花菜実は観念したようにかぶりを振る。 「じゃあ……好き?」  こくこくと頷くと、今度は理由を尋ねられた。 「どうして?」 「っ、あ、え……っ、き……ぃ……」 「ん?」  さっきよりも強く擦られて、思わず高い声が上がる。 「あぁんっ、やぁ……き、もちいぃ……」 「……よく出来ました」  その言葉と同時に、畳み掛けるように秘芯を愛撫された。 「あぁっ、あ、あ、っ……んっ」  全身が大きく震えて跳ねた。何もかもが初めての感覚で、もうどう反応したらいいのか――翻弄されるままに甘い悲鳴を放ち、身体をしならせてしまう。もしもう一人自分がいて、この今の痴態を見ていたなら、羞恥でさけび出してしまうに違いない。  そう思ってはいても、制御出来なかった。  次に幸希の指がそこを拉ぐように擦り上げた時、目の前が白くなった。 「はぁっ……ぁっ、んん……っ」  急に押し寄せてきた大きな快感が花菜実の内側でうねり、四肢の先まで波及した。腰が弾み、秘部は痙攣し、大きく震える。これは本当に自分の身体なのかと疑ってしまうほど、予想も出来ない反応だった。 「ぁ……、っは、ぁ……」  ようやく波が収まったかと思うと、急に部屋の中が無音になった気がして。震える指先で頬に触れると、涙が伝い落ちていた。 「――怖かった?」  穏やかな声音で尋ねられ、ふるふると首を左右に振る。 「こんな、の、初めてで……」  いきなり脚を広げられて、秘裂や花芯を舐られて。強烈な刺激を一気に注がれてしまい、許容量を超えてあふれてしまいそうだったけれど、身体は貪欲に幸希がくれた快楽をすべて呑み込んでいた。その反面、頭の中は麻痺しきっていて。まるで胴体と脳髄を切り離されたかのように、意識が置き去りにされ、肉体だけが遠くへ行ってしまったような気にすらなった。  見ると、幸希がばつの悪そうな表情で、花菜実の頬を拭っていた。 「……花菜実の呼び捨ては、思いのほか破壊力があるな」 「え……?」 「色っぽくて、可愛くて、一瞬我を忘れた」  きょとんとする花菜実に、幸希が触れるだけのくちづけをする。 「……少し待ってて」  そう言い残すと、彼はベッドから降りた。 「幸希……さん?」  離れていく姿を見て、心許なくなりベッドスプレッドを手繰り寄せた。どこへ行ってしまうのだろうかと、目で問う。 「――ヒントその一、さっきも言った通り、僕は今までこのマンションに女性を連れ込んだことはない。ヒントその二、これもさっき言ったけれど、僕は今日、ここで花菜実を抱くつもりはなかった。――だから、本来この寝室に常備しておくべきものが用意されていない状況なんだ」 「?」  わざと遠回しに言っているのだろう。花菜実には彼が伝えたいことがよく分からず、首を傾げる。そんな彼女を見て、幸希がクスリと笑った。 「じゃあスペシャルヒント――僕は明日にでも花菜実と結婚したいと思ってはいるけど、今、ここで子供を作るつもりはない」 「……あ」  子供を作る――その言葉で、ようやく花菜実は彼の意味することを理解出来た。 「分かった?」  花菜実はほのかに頬を染め、何度もうなずいた。 「財布に入っていると思うから、取って来る」  幸希は笑いながら寝室を出て行った。
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