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〈僕〉と少女
〈僕〉は毎日代わり映えの無い退屈な日々を送っていた。
話し相手は神一人、その神も参拝客の願いを叶える為に奔走する毎日でずっと一緒にいれるわけではない。
〈僕〉は人間ではないけれど神でもない、ただの神の眷属なのだ。
けれど〈僕〉の仕事と言えば参拝に来た人間を見に行き、その人間の願いと賽銭箱の隣に設置してある箱の中に投げられた赤い紐を神の元へと運ぶだけ。
そんな退屈な毎日に突然現れた少女。
初めこそ、突然現れた〈僕〉を警戒していた少女であったが、少女がこの神社へとやってくる度に偶然を装って現れれば次第に段々と何故〈僕〉が現れるのかなんて気にすることは無くなっていた。
そのことを〈僕〉は特に不審に思うことなく自身の努力の結果だと思っていたが実際は〈僕〉の見た目が小学生男子に見えること、話しかけてくるだけで特に変な行動を取るようなこともしないことを踏まえて難しく考えることを放棄しただけのことであった。
そのことに〈僕〉は最後まで気が付かなかったけれど。
そんな〈僕〉と少女の奇妙な逢瀬は毎日のように行われた。
そのことが更に〈僕〉を不思議な気持ちにさせた。
と、言うのもこの神社に訪れた人間は大体にして1度願えばもうそれっきり姿を見せることが無かったのだ。
けれど少女は毎日決まった時間にやってくる。
それが何故か、なんてこと〈僕〉には知る由も無かったのだけど。
そうして出会って数週間が経った頃。
ついに〈僕〉は常々疑問に思っていたあのことを聞くべく、参拝が終わった少女の背中へと語りかけた。
「なぁ」
その〈僕〉の言葉に少女が驚くことはもう無かった。
「何ですか?」
「あんた何で毎日こんな寂れた神社なんかに来るわけ、何をそんなに一生懸命願ってんの?」
「え、」
「目に見えてない癖にそれでも神さんなんてものに縋りたいものなの?本当にいるかどうかも分からない神になんて縋って願いが叶うって本気で思ってんの?」
そう、言い放った〈僕〉の言葉に少女は暫くポカンと、呆気に取られていたが少し経ってふっ、と柔らかく微笑んだ。
その微笑みは酷く儚げで今度は〈僕〉の方が言葉を失った。
そんな〈僕〉を対して気にする様子もなく少女が口を開く。
「目に見えないから縋りたくなるんです」
「へ?」
「目に見えていなくても、不確かでも、例え存在していなくたってそれならそれでいいんです」
「……」
「それでも願わずにいられないんです。そう言った不可思議な存在である、私達人間が神様と呼ぶそんな存在に縋らないと心が壊れてしまうから、これ以上もう、一人では抱えきれないから、人間とは違う神秘性を持つそんな存在の力に頼りたくなるんです。人間ではどうしようもない出来事が起こった時、どうしたってそういったモノに縋りたくなるんですよ。だって目に見えていないからって存在するとは言えなくても存在しないともハッキリ言えないじゃないですか、信じるのはその人の勝手ですしね」
「そういうもんなんかねぇ」
「皆あなたみたいに強くないんです」
「いや、別に僕も強いわけじゃないけど」
「そうなんですか?」
「まぁ、それなりに……?」
「ふふ、こんなこと聞く人は強い人だと思いますけどね」
「……」
「まぁ、これは私の考えなので他の皆さんも同じだとは思わないんですけどね、ただそう言う人間もいるんですってことだけ」
「……」
「これで質問の答えになりましたか?」
「……うん、正直話を聞いてもやっぱりよくわからんけど」
「本当に正直ですね」
〈僕〉の言葉に少女がくすりと笑う。
「ん、でも何となく、言いたいことは伝わった気がする。要はあんたにとって重要なのは目に見える存在かどうかってことじゃなくて、心の支えになるかどうかで、この行動も決して無意味なんかじゃないってことなんだろ」
「そうですね、はい、その通りです」
〈僕〉は少女の言葉を完全に理解できたわけでも、少女の答えに納得したわけでもなかったが、神と違って真摯に答えてくれたその言葉が〈僕〉の胸の中に何故だか沁み込んだ。
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