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願いを叶えるには
そうして少女と話すようになって一月が経っていた。
少女は相変わらず毎日決まった時間に神社へとやってきたし、〈僕〉も変わらずそんな少女の前へと姿を現し、他愛も無い話をした。
〈僕〉は自身の話はしなかったがそれは少女も同じであった。
あの〈僕〉の質問以降、少女が己の考えや願いについて話すことは無かった。
それで良かった、何てことない話をする、時間にすればほんの数分程度のやり取りがいつの間にか〈僕〉にとっての楽しみになっていた。
■□■
「今日もあのお嬢ちゃんとお喋りしていたのかえ」
「んだよ、神さん、そんなの僕の勝手だろ」
「あまり深入りするでないぞ」
「……」
「彼女とお主では生きておる世界が違うのじゃから……あぁいや、そもそももう生きてすらおらんかったの」
「……んなこと言われなくても分かってるよ」
「分かっておるなら良いのじゃ」
「分かってるよ、最初から」
「うむ」
「なぁ神さん」
「なんじゃ」
「何で他の参拝客の願いは叶えてやってるのに彼女の願いは叶えてやんねぇの」
〈僕〉のその言葉に神は呆れたように溜息を吐いた。
先程までの重い空気とは打って変わった神のその態度に思わず〈僕〉は困惑してしまう。
「お主、それ本気で言っておるのか?」
「な、なんだよぉ」
「……はぁ、彼女は正式な参拝方法をしておらんのじゃ、ほれ、いつも参拝客が帰った後こっちに戻ってくる際にお主に運ばせてるものがあるじゃろ」
「あ、赤い紐」
「そう、それじゃ、あれは赤い紐なら何でも良いと言うわけじゃないのじゃ。彼女はそれを知らぬのかはたまた知っていても手に入れることが出来ぬのか、そのどちらかじゃろうな」
「なるほど」
「それともう一つ願いを唱える際の言葉の並びが毎回間違えておるでのぅ、故に儂が彼女の願いを聞き届ける必要は無い、と言うことじゃな。って、最初にお主がここへやって来た時も説明したんじゃがちゃんと聞いてなかったな」
「き、聞いてたし」
「嘘をつけ、嘘を。全く、お主には神に仕えておる眷属としての自覚が薄いようじゃな、一体どうしてこうなったのやら」
そんな話を神としたその日の晩を最後に〈僕〉は彼女の姿を見ることは無くなった。
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