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エピローグ
少女が姿を見せなくなって数日が経った。
元の何の変哲も無い退屈な毎日へと逆戻り。
その事について嘆くことを〈僕〉は決してすることは無かった。
だって〈僕〉は気が付いていた。
なぜ彼女はこの神社へと姿を見せなくなったのか、それはきっと正しい参拝方法を知ったのだろう。
否、神が以前言っていたきちんとした赤い紐を手に入れたのだろう。
そうしてそれを使い、正しい手順で参拝を実行したのだ。他の参拝客のように、そうして神様が彼女の願いを叶えた。
たったそれだけの事。
たったそれだけの事だと頭では理解しているはずなのに何故だか〈僕〉の心に小さな黒いシミのように染みついた感情は消えることなく、日に日に大きくなっていた。
けれどその気持ちが何なのか、人間ではない〈僕〉には分かるはずもなかった。
―彼女なら分かるのかな―
ふっ、と浮かぶのは初めて参拝に訪れた際に浮かべていた少女の笑顔。
そんな記憶を振り払うかのように〈僕〉は頭を大きく左右に振る。
神に聞いてみたところできっといつものようにのらりくらりと交わされるのだろう。
いや、そもそも今はその神とまともに会話もできない状態なのだ。
最近以前にもまして参拝客が増え、毎日のように駆けずり回っている。
そんな風にバタバタと忙しそうにしている姿を見ていればいつもの軽口すら叩くことを躊躇ってしまう。
〈僕〉は小さく溜息と一緒に
「本当、何で人はこうも簡単に神へと縋るんだか」
なんて言葉を吐き出した。
■□■
「かみさま、神様、死神様。どうか私の願いをお聞き届けください」
ここは死を司る神が鎮座する社。
今日もまた、獣も人も寝静まった丑三つ時、心に復讐心を燻らせた参拝客がやって来る。
その手には真っ赤な赤い紐を携えて。
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