神様と〈僕〉

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神様と〈僕〉

 今日もまた、獣も人も寝静まった丑三つ時、山奥にひっそりと佇む神社へと人間がやってくる。  その人間の姿を見て〈僕〉は考える。  神に縋るしかなくなった目の前の人間の事を。  何故、ここまでわざわざやってくるのか  何故、そんなにも苦しそうなのか  何故、ひっそりと一目を忍んでやってくるのか  何故、何故、何故  沢山の何故が浮かんでは消えていく。けれど一人で考えても答えは一向に出ることがない。    そうしてまた、賽銭箱の隣、小さな箱の中に参拝客の手によって赤い紐が投げ入れられるのだ。 ■□■ 「何で人間はあんたの姿が見えないのに願いを叶えてもらおうとやってくるのかねぇ」 「ふぅ、神様に対しての口の利き方がなってないぞい、小童。仮にも儂はお主の主なのじゃからもうちょいお利口に喋れんかのう」 「はっ、勝手に縛っといて良く言うぜ」 「仕方なかろう。お主を助ける為にはこれしか方法が無かったのじゃから。それに、願ったのはお主も同じじゃろうて」 ―しにたくない― 「そんな大昔の事忘れちまったね」 「むぅ、あぁ言えばこう言う。まだほんの数十年前の話じゃぞ、ボケるにはまだ早かろうに、ほんにお主はいつになったら懐いてくれるのやら」 「うっせぇ!懐くってなんだよ、懐くって。いや、そもそも最近のブームなのか何なのか分かんねぇがそのじじい口調やめろよな、時々何か変な口調なってんぞ」 「じゃがのう、長年生きておると時折キャラ変でもしないとやっておられんのじゃ。一種の遊び心というやつじゃな」 「ふーん……いやいやそれで何でそのキャラを選んだよ、あんた、見た目は僕とそう変わんねぇ姿なんだから違和感ありまくりでちぐはぐしてんぞ」 「いや、お主はどう見ても小学生男子にしか見えぬが儂は人間換算で行くとハタチくらいには見えるじゃろ」 「誰が小学生男子だ!」 「おー、おーこわいこわい、最近の若者はすぐキレると言う噂はホントじゃったな」 「その口調と表情マジで腹立つから一発殴らせろ」 「暴力はんたーい!もっと主を敬えー!!」 「あぁ?敬う要素がねぇんだから仕方がないだろ!」 「何それ酷くない!?」 「早速、キャラブレしてんぞぉ、神さんよぉ」  そう言った〈僕〉に対し神は小さく笑いを零す。  そんな神の態度が〈僕〉は気に食わないのだ。  そうしてまた文句の一つでも言ってやろうと口を開いた〈僕〉の言葉を遮ったのはその神であった。 「で、何じゃったか、あぁ何故人間が姿の見えない儂に願いを叶えてもらおうとやってくるのかと言う疑問じゃったな」 「目に見えないならそこに存在していないのと同じだろ。そんな不確定なモノに大事な願いを預けて良いのかよ」 「それはまぁ儂にも分からんのぅ、じゃって儂が神だし」 「そりゃそうだ、あんたに聞いた俺が馬鹿だった」 「本当に酷い扱いじゃな」  そんなやり取りを2人がしていれば、サクッと、土を踏む音が外から聞こえてきた。 「ほほ、今日もまた迷える子羊が闇夜の中、儂の領域へと辿り着いたわい」 「色々突込みてぇが一々相手してたら疲れることがついさっき分かったから僕はもう何も言わねぇ」 「そうやって反応すること自体が面白いんじゃがのぅ。まぁよい、ほれ、どんな子羊がやって来たのか確認してこい」 「はいはい、主様の仰せのままに~」 「素直すぎて気持ち悪いのぅ」 「もう黙ってて」 「冗談じゃ、冗談、神様ジョークじゃよ」  そう言って、「いってらっしゃーい」だなんて大きく手を振る神の姿に小さく溜息を吐き出した〈僕〉は外へと続く回廊へと足を進めた。
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