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「先輩達にもそんな時があったんですね」
「まあな。段々自分の中でも自分よりすごい奴がいる事とか、テストの点だけじゃ誰もついてこないって事を認められて、それで楽になったんだけどな」
博の顔は尚も半分隠されていて、ちらりと見える横顔は赤いまま。普段取り乱す事が少ない博には珍しい。
「随分殊勝だな」
「煩い、思い出したくない過去なんだよ!」
「ちなみに俺らもお前らの学年が仲良くなれるか心配してたんだぞ? 姫は多分大丈夫よなんて笑ってたけどな」
「健司先輩、ほんとに掘り返さないでくださいよ」
「悪い悪い! 博がこんな恥ずかしがるなんて初めて見るからさ!」
博は恥ずかしがってはいるけれど、本当に過去を葬り去りたいわけでも、嫌がっているわけでもない。それがわかっているから、安心して笑える。
「でもな、慧」
「うん?」
「お前にだけは言われたくない! お前だって咲希にあたりが強かったくせに! 覚えてるからな、女はどうだこうだって事あるごとに言ってたの!」
「それこそ時効だろ!」
「それが時効なら俺のも時効だ!」
二人の子供みたいなやりとりに、謙太と顔を見合わせる。
「ま、気負うなって事だよ。まだ十二歳なんだ。博も同じように自分の見てきた世界は狭かったんだって思えるようになれば態度も変わってくるかもしれないし、ゆっくり見ていこう」
「はーい!」
健司の言葉を合図に、夕食はいつもの楽しい時間へと変わった。
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