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それどころか。
「あの、先に帰っててもいいですか?」
「え?」
「買いたい物は全部買い終わったんで」
冷ややかな声で言い出す始末。
咲希が頭を抱えそうになったところで、哲平が助け舟を出してくれた。
「そんな事言うなって。荷物持ってやるから。先輩や同級生と親睦を深めてもバチは当たらないだろ?」
「人とつるむの好きじゃないんです」
「何で?」
「皆一緒にとか、同じ事をとかいう同調圧力が何か生み出します? 仲良くしないとどうのこうのって言う人ほどレベルが低いし」
その言葉にいち早く反論したのは京子だ。
「何それ! 私達は好きで仲良くしてるし、何で知りもしないでレベルが低いなんて言うの⁉︎」
「京子、落ち着いて」
「嫌です! だってこれって咲希先輩の事も哲平の事も馬鹿にしてるじゃないですか! いい? 咲希先輩は優しくて後輩想いで、私達もすっごい助けてもらった! 入学からずっとSランクを維持してるすごい先輩なんだから! 哲平だってAランクでスポーツも勉強もできるのに威張らないすんごいいい奴なんだからね!」
捲し立てるような勢いに、誰も口を挟めない。上級生は勢いに圧倒されたし、他の新入生はオロオロするばかり。言われた本人は無言で唇を噛み締めたけれど、何を思っているのかは見てとれなかった。
そんな中、事の成り行きを黙って見ていた慧がふと笑った。
「今驚いたろ?」
「え?」
「咲希の事、Sランクだと思ってなかったろ」
「……はい」
その声は今までよりもずっと小さな物。
「言っとくけど、今までの寮長・副寮長もフレンドリーな人が多かったけど皆素晴らしい人だった。俺らが尊敬してる最初の寮長は入学からずっと学年一位の成績とSランクを守りきったけど、寮内では誰よりも率先してレクリエーションを企画するし、何よりも後輩と買い物やお茶会をするのが楽しみっていうお茶目な人だった。一ヶ月でいいから全部受け止めてみろって」
慧が諭すように言うと、今度は無言で頷いた。
そんな時だった。
「あれ? 何ですかね?」
珠里は窓の外を指し示した。
見れば黒塗りの長い車が向こうからこちらにやって来る。
「……アリスかな?」
「昨年はアリス来てないぞ? 廃止になったんじゃないか? それに……」
転校生に使うには、車が立派すぎる。寧ろいくら規格外なネデナ学園とはいえ、あんな車見た事ない。
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