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でも、それ以上は何も答えてくれなかった。
「咲希」
「何……?」
話を遮った一樹は優しい笑みを浮かべる。
「咲希の成績、聞いてるよ。ずっと努力して頑張ったんだね」
「一樹! 今そんな事聞きたいんじゃない!」
「落ち着いたら連絡するから、食事にでも行こう」
「そうじゃなくて! 今まで何してたの⁉︎ 保険医って何? 何で学園に戻ってきたの⁉︎」
咲希が声を荒げても、返ってくるのは微笑みだけ。そのやりとりを城之内は小馬鹿にしたように笑った。
「あーあ。過保護なお兄さんがこれ以上はダメだって」
「だから何が!」
「行くよ、城之内」
「俺に指図するな」
「一樹!」
「咲希はこれからもいい子でいてね」
一樹はそのまま校舎の方へと歩いて行ってしまった。置き土産のような言葉は有無を言わせない物。追いかけても何も答えてもらえないのは明らかで、足は動かなかった。
部屋に帰ると、慧は当たり前のようにソファーに座ってジスランを撫でていた。
「おかえり」
「……ただいま」
「その様子じゃいい感じではなさそうだな」
「うん」
答えながら隣に腰掛けると、マグカップが渡される。まだ温かいミルクティーは、まるで帰ってくる事を見越していたみたいだ。
「何だって?」
「一樹が叶先生の後任で、城之内先輩が工藤先生の後任だって」
「は⁉︎ 何だそれ」
咲希が静かに答えれば、慧は目を見開いた。
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