一、寮長と副寮長

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 でも、それ以上は何も答えてくれなかった。 「咲希」 「何……?」  話を遮った一樹は優しい笑みを浮かべる。 「咲希の成績、聞いてるよ。ずっと努力して頑張ったんだね」 「一樹! 今そんな事聞きたいんじゃない!」 「落ち着いたら連絡するから、食事にでも行こう」 「そうじゃなくて! 今まで何してたの⁉︎ 保険医って何? 何で学園に戻ってきたの⁉︎」  咲希が声を荒げても、返ってくるのは微笑みだけ。そのやりとりを城之内は小馬鹿にしたように笑った。 「あーあ。過保護なお兄さんがこれ以上はダメだって」 「だから何が!」 「行くよ、城之内」 「俺に指図するな」 「一樹!」 「咲希はこれからもいい子でいてね」  一樹はそのまま校舎の方へと歩いて行ってしまった。置き土産のような言葉は有無を言わせない物。追いかけても何も答えてもらえないのは明らかで、足は動かなかった。  部屋に帰ると、慧は当たり前のようにソファーに座ってジスランを撫でていた。 「おかえり」 「……ただいま」 「その様子じゃいい感じではなさそうだな」 「うん」  答えながら隣に腰掛けると、マグカップが渡される。まだ温かいミルクティーは、まるで帰ってくる事を見越していたみたいだ。 「何だって?」 「一樹が叶先生の後任で、城之内先輩が工藤先生の後任だって」 「は⁉︎ 何だそれ」  咲希が静かに答えれば、慧は目を見開いた。
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