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学園に帰ってきた理由がわからないのは、城之内だけじゃない。もう一人、ずっと行方もわからず、やっと会えても何も話してくれない兄・一樹もだ。
放課後、咲希は保健室を訪れた。一つ深呼吸をしてから扉をノックする。返事はすぐに返ってきた。
「どうぞ?」
「失礼します」
声をかけて中に入ると、一樹は保健医のデスクに座って書類の整理をしていたようだった。
「咲希か。いらっしゃい、こっちに座りな?」
やっぱり咲希に向ける表情は柔らかくて優しい。だけど、もうそれを嬉しいとは思えない。
「一樹」
自然と表情も硬くなる。
「何だい?」
「今までどこで何してたの? 何で戻ってきたの?」
咲希は真剣に尋ねた。けれど。
「咲希は僕と会えない方が良かった?」
「そうじゃないけど……」
「なら喜んでくれたら嬉しいな」
「だから! そうじゃなくて、今までどうしてたの⁉︎ ちゃんと答えてってば!」
「色々勉強してたんだよ」
一樹は微笑むばかりで、肝心な事には何も答えてくれない。
「家に手紙を出しても一樹は帰ってきてないって言うし、心配してたんだよ⁉︎」
「ありがとう。元気でやってたよ」
「ならどこで何をしてたのかちゃんと教えてよ! Zって何⁉︎ 真瀬先輩に何を言ったの!」
「咲希は知らなくていい事だよ」
「由羅、卒業してからずっと一樹の事探してるんだよ⁉︎ 玲央だって由羅の事手伝うって」
「咲希」
そこで初めて一樹の声色が変わった。
「せっかく話してるのにそいつらの話は聞きたくないな」
表情は笑っているのに声は異様に冷たくて、背筋に悪寒が走る。
「……何で? 康介達も一樹にとって弟と妹でしょ?」
震える声で聞くと、返ってきたのは聞きたくなかった答えだった。
「少なくとも学園に入学してからあいつらを兄弟だと思った事はないよ」
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