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「何で? 何でそんな事言うの?」
「咲希こそ、何であいつらに懐くのかわからないな。小さな頃手を引いて歩いたのも幼稚園の工作を見に行ったのも絵本を読んだのも、全部僕だったろ?」
「そうだけど」
「あいつらは自分が良ければそれでいいんだ。咲希にはそんな子になってほしくない」
一樹は緩やかに口角を上げているけれど、眼鏡の奥の瞳は笑ってない。それが余計に怖い。
「でも……皆仲直りしたんだよ? 一樹が卒業してから玲央とはよく散歩に行ったし、尚人とも」
「咲希」
取り繕おうとした言葉も、すぐに遮られた。
「あいつらの話は聞きたくないって言ったよね?」
「でも一樹!」
「あいつらの話題を出すなら帰りなさい」
声は相変わらず、言い聞かせるような静かなもの。だけど、これ以上何か言っても聞いてもらえないのは明らかだった。
「……わかった」
咲希が諦めると、一樹の表情は途端に柔らかくなった。
「咲希はいい子だね。そうだ。今度、話していた食事に行こう」
「……うん」
「ショップ街の店もだいぶ変わってしまったからわからないな。咲希はどこかお気に入りのレストランはある?」
優しい言葉をかけられても、さっきまでの一樹が脳裏を過ぎる。
「うーん……考えとくね」
ぎこちなく笑い返すので精一杯だった。
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