二、戻ってきた人

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「……あると思います?」  慧はカップを手に取りながら、事もなげに聞き返した。 「だよなあ」 「向いてないでしょ。健司先輩こそどうですか?」 「ないな。俺は寮のお兄さんに専念でいいよ」 「ですよね」  二人はお互いの答えを予想していたようで、共に苦笑いを浮かべた。そして同時に咲希へと視線を移す。 「え? 何?」 「こういうのは咲希だろ」 「だな」 「え?」  尋ねても、二人は楽しそうに笑うばかり。代わりに宏太と眞子が声をあげてくれた。 「やった! 咲希先輩が生徒会長!」 「応援します、絶対! やー! カッコいい!」 「え? え⁉︎」  こっちがついていけていない間に、歓声は伝染していく。 「えー! 咲希先輩が立候補するんですか!」 「咲希先輩なら誰も文句の言いようがないし、絶対すぐ決まりますよね!」 「やった! うちから生徒会長!」 「ちょっと待って!」  あちこちから歓声が沸き上がり、皆の方を振り返っても止む気配はない。そんな中で博と謙太は頑張れとばかりに親指を上げ。 「まあ咲希の方が向いてるよね」 「慧は一度懐に入れた人間には優しいけど、他寮の相手は向かないだろ」  わざわざ大きな声で冷静に分析してくれる。  と、いう事は。 「え? 私が立候補するの? 生徒会長?」  もう一度尋ねると、慧は口角を上げて頷いた。 「村越先輩は権力を振りかざしたりしなかったからまだ良かったけど、他寮が生徒会長になっても、デメリットはあってもメリットはないだろ」 「まあそうだね」 「だけど、俺は寮のためなら何でもするけど、学園全体の事とかイベントとかレクリエーションの企画なんて興味ない」 「だね」 「なら、うちで他の寮の事も考える事ができて、なおかつ他の寮に文句言う隙を与えないのは?」  8年生のSランクは健司先輩と普通科にもう一人。ここで先端技術科のSランクが立候補しなければ、きっとその人に決まってしまう。  健司先輩を見れば「俺も興味ない!」と笑われて。 「……私」  答えはそれしかない。慧は満足げに頷いた。
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