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え?
そう思って首を伸ばすと、衝立の向こうにいたのは井丹華だった。
「あれ? 結坂さん」
「井丹さん」
華も一人なのか、テーブルの上にはカップが一脚。中がほとんど無くなってるのを見て、考えるより前に口が動いた。
「良かったらもう一軒行かない? いい所知ってるんだけど」
「行く」
即答に、思わず口角が上がった。
「ここ気になってたの」
定番となったショップ街の喫茶店は今日も静か。というより、他にお客さんはいない。注文を終えるなり、華は店内を見回した。
「良かった。姫と柚子先輩のお気に入りなの」
「知ってる、先端技術科の高ランク御用達って噂になってたから。他の寮生は行きにくい感じだったの」
「え、そうなんだ」
道理で今まで他のお客さんが少ないと思った。咲希がそう溢すと、華はおかしそうに尋ねる。
「今日は一人なの?」
「うん、買い物」
「一条君とか山内君なら付き合ってくれそうだけど」
「いや、下着なの」
「あ、納得」
その言葉はあまりに冷静で、次の瞬間二人して笑った。
「そっか、仲良くても流石に男子と下着の買い物は行けないよね」
「うん、多分寮の先輩とか色んな人から怒られちゃう」
「うわ、過保護!」
亜実先輩とか健司先輩とか。多分博にも怒られるだろうし、慧には確実にため息をつかれる。そこは否定したくても否定できない。
曖昧に苦笑いを浮かべた。
その時だ。合図の風鈴の音と共に。
「いらっしゃいませ」
「うわー! すごーい!」
「こんなとこ入学できてラッキーだよね!」
「ねー!」
新入生と思しき女の子達が入ってきた。四人は古き良き喫茶店なんて珍しいのだろう、はしゃいでる。静かだった店内が一気に賑やかになる。
「やだ……」
「やだ……」
その呟きはぴたりと重なって、思わず顔を見合わせて吹き出した。
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