1 片恋消しゴム

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『戸田 るり』  見られたのは、刹那(せつな)。  すぐにそれは悠から奪い取られ、彼の手に渡った。  それはまるで、以前るりが慌てて取り返したあの日の出来事を、逆転させたかのような光景。  そして悠は、持っていたるりの消しゴムを、彼女に押しつけた。そのまま理科室の扉へ向かい、戸に手をかけた瞬間、振り返って大きく叫ぶ。 「どっちが先に使いきれるか、勝負な!」  言葉を失ったるりを残して、悠はバタバタと、廊下を響かせ走り去った。  残されたるりは、ただ、取り戻した自分の消しゴムを両手に閉じ込めて、顔を赤くするしかない。  しばらくして、るりはへなへなと床の汚れも気にせずに、へたり込んでしまった。  悠は、わかっているのだろうか。  消しゴムを使いきることの、意味を。  おまじないの、意味を。  疑問符がまたしても、るりの頭をからかうように駆け回る。  けれど、うるさいほどに鳴り響く心臓に、そんな思考さえもかき消されていく。  ただ──掴まれていた左腕と、消しゴムを握っている左手が熱く感じて、るりは、しばらくそこから動けないでいた。  彼女の耳にまた、グラウンドからの部活動をする生徒たちの声が届く。  静寂を満たす理科室に射しこむ、明るい声。  そのうちに、消しゴムに書いた名前の男の子の声も、混ざりはじめた。 0100ba0b-e740-4235-ace9-6ff3f7b3cfab ◇ 片恋消しゴム 了 ◇
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