2 三十センチ近い空

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「圭ちゃん、悠くん! 大変だよ!」  圭介を「圭ちゃん」呼ばわりする人物は、一人しかいない。こちらも小学校からの友人で、サッカー部仲間の小池隼人(こいけ はやと)だ。  放課後、圭介がサッカー部の更衣室──グラウンド隅のプレハブとも言う──で着替えていたら、隼人が慌てた様子で飛びこんできた。隼人も同じクラスだったが、日直だったので遅れてきたのだ。  更衣室には圭介と悠しかおらず、そこに隼人が加わって三人となった。  大谷圭介、中曽根悠、小池隼人は、その苗字にちなんで「大中小トリオ」と呼ばれていた。ちなみに身長も、そのとおりになっている。とても特徴あるトリオとして、入学当初から目立っていることを、本人たちは知らない。 「どうした、小池。そんなに慌てて」  三人の中では一番大人しい隼人が、めずらしく大きな声をあげていたので、悠も不思議に思ったらしい。問いかけた悠へ、隼人は告げた。 「今日、一年生のポジションの発表があるって!」 「え! 本当か!」  そう反応したのは悠ではなく、圭介だった。  市立青葉中学校のサッカー部一年生は、この六月まで、体力強化トレーニングや基礎トレーニングしかさせてもらえないでいた。ランニングやストレッチ運動が主なもので、パスやシュートの練習などは、先輩たちの走り回るグラウンドの横で地味に繰り返すのみだった。  もちろん、そういった基礎プレイも圭介は好きだったが、早く先輩たちのように、ポジションを与えられてゲームに参加したいとうずうずとしていた。  おもわず胸が高鳴る。  高揚しそうな気分の圭介へ近づき、隼人は言葉を続けた。 「さっき、職員室で坂本先生が他の先生と話しているのを聞いたんだ」  圭介の頭のなかに、サッカー部顧問である若い男性教師の顔が浮かんだ。  となりでは悠も、目を輝かせて「今日か」とつぶやいていたので、彼も似たような心境なのだろう。  もう、基礎トレーニングには飽き飽きしていたサッカー部一年生メンバーだ。この朗報に、浮き立たないわけがなかった。 「俺、フォワードがいいな!」 「圭ちゃんは、昔からそうだよね」 「当たり前だろ、シュートがサッカーの醍醐味だぜ。フォワードでなくっちゃ意味ねえよ」  思わず熱く語る圭介に、悠も同意をしめした。 「俺も俺も。フォワードやりたいな」 「あ、悠くんもか。僕は、ミッドフィルダーかディフェンダーかな」
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