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(だっ……だめ!)
それは、電光石火の動きだった。
るりは椅子から大きな音をたてて立ち上がると、悠の手元へ手を伸ばして、消しゴムを取り返した。
突然の行動に悠はやはり、びっくりしていた。
「え、何だよ、いきなり」
「だ……だめ! やっぱり、貸せない!」
これが挙動不審な行動であることも、小さな騒ぎにまわりの数名がこちらに注目していることも、るりは気づいていた。
気づいていても、もう、平常でなくなった心がるりを後戻りできなくさせる。ひたすらに、手のひらに包まれた小さな消しゴムを、守るようにぎゅっと胸の中で抱きしめ、隠した。
「何でだよ」
不満そうに眉をしかめた悠が、るりに問ただそうとした──ちょうどそのとき。
「はいはーい。みんな、席につけよー」
一限目の数学教師が教室に入ってきたので、悠はタイミングを逃したのか、それ以上の追求はしてこなかった。けれど、納得はしていない表情だ。
となりの席に戻ったるりは、居心地が悪いままに、その日の授業を受けはじめた。
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