18人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわ!?」
と男子生徒の悲鳴があがり、その後に、水飛沫が飛び散る派手な音が聞こえた。
落胆していたるりが顔を上げて、驚いた。あの男子生徒が、プールに落っこちているではないか。
その代わりに近くに立っていたのは、水着姿の悠だった。
「そこに立ってると邪魔だろ、バーカ」
悠は背中をこちらに向けていたので、どんな顔をしてそのセリフを言ったのかはわからなかった。るりには、悠の日焼けした健康的な背中しか見えなかった。
「な、何するんだよ中曽根ー!」
プールに落とされた男子生徒は、あっぷあっぷと水かきをしながらプールの端に寄ってくる。どうやら、一番深い場所に落とされてしまったようだ。
「悪い悪い、ほら」
悠は腰をかがめて、男子生徒に手を伸ばし、引っ張ろうとした。
しかし、すぐに「なんてな」と言って手を離したので、男子生徒はふたたび、プールに水飛沫をあげて落ちてしまった。
「なっ、中曽根! てめぇ!」
「へっへーん。騙される方がバカなんですー」
怒った男子生徒は自力でプールからはい上がると、走り出した悠を追いかけ始めた。もうすでに、るりのことなど忘れているようだ。
るりといえば、その一部始終を、ただ口をぽかんと開けて見守っているしかなかった。
遠くなる悠の後ろ姿を見つめる。小麦色の背中を少しひねらせて、彼は一瞬、るりの方を見た。
その目と視線が合ったとき、悠は、笑ってくれたのだ。
それはまるで、真夏の太陽みたいな笑顔で。
(もしかして、助けてくれた……?)
真意など、わからない。
けれど悠のおかげで、もうからかわれなくなったのは事実だった。
るりが、悠を意識しだしたのはそれからだった。
それが恋愛感情だと気づくまで、すこし時間はかかってしまった。幼なじみであった悠を好きになるなんて、るりは思ってもみなかったから。
だから、卒業するまで何もできなかった。告白なんてあり得なかった。
今までの軽口を叩ける間柄で、充分るりは満足していた。
中学に上がって、また同じクラスになれた時は嬉しかった。となりの席と知ったときには、まさか人生の運をすべてここで使っているんじゃないか……と、不安になるくらいだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!