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けれど、幸福の帳尻合わせはすぐに行われてしまった。
恋愛成就のためにしていた消しゴムのおまじないがバレそうになって、慌てて奪い返したるり。あれから悠とは、ぎくしゃくしたままだ。
いつもなら、休み時間などには普通に会話をする仲だったのに、あれからそんな行為はパタリとなくなってしまった。
恋に落ちるのが一瞬ならば、嫌いになるのも一瞬なのかもしれない。
そんなふうに、るりは考えてしまう。
今日も、悠とは会話がないまま三限目が終わった。四限目は理科室への移動だったので、るりは友人の羽鳥梢と教室を出た。
「るり、最近、中曽根と何かあったの?」
「えっ」
廊下を歩いている途中で、梢がそう聞いてきたのでるりは驚いた。梢もるりの幼なじみだ。悠へ片想いをしていることも、知っていた。
「う、うん。ちょっと……ね」
るりはつい、言葉を濁してしまう。
以前のあの悠とのやりとりを話すには、自分が消しゴムのおまじないをしていることを、話さなくてはならない。でも中学生にもなって、幼いおまじないをしていることが恥ずかしく感じ、正直に言えないでいた。
梢は真面目で、こざっぱりとした性格だ。るりの控えめな性格もよく知っているため、彼女の伏し目がちな態度を見て、何かを察したようだった。
「そっか。まあ、どうせ中曽根が何かやらかしたんでしょ」
悠の能天気で根明な性格も知っている梢は、勝手にそう一人結論づけた。
今回に関しては、るりがやらかしたわけだったが、るりに訂正ができるわけもなく。
「あはは。……あ、美羽がいるよ! 美羽、やっほー」
廊下でちょうど出くわした友人へ、救世主とばかりに手を振った。
「あれ、るりっちと梢ちゃん。教室移動?」
女子トイレから出てきた女子生徒は、となりのクラスの望月美羽だ。
彼女も同じ小学校出身で、二人と仲が良い。るりのいる二組にもよく遊びに来る彼女は、おしゃべり好きでとても明るい性格だ。仲がいい友人には親しみをこめてあだ名をつけることが好きで、るりは『るりっち』と呼ばれている。ちなみに梢にちゃん付けをしているのは、親しみがないからではなく、それが梢らしいのだというのが、彼女の理論……らしい。
「うん、今から理科室に行くの」
呼び止めて申し訳ないと思いつつ、るりは答えた。気に留めるでもなく、美羽は無邪気に近づいてきた。
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