1 片恋消しゴム

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 美羽の予想通り、理科室では池から汲まれたという水を(もち)いての、微生物の顕微鏡観察が行われることになった。  六つの班に分かれて、それぞれがテーブルに顕微鏡セットを置く。  るりの向かいには、同じ班になった梢がいた。梢の後ろには、となりのテーブル班になった悠が、こちらに背を向けて座っている。  遠くなったように感じる背中を、るりはちらちらと見ていた。  授業が進む理科室内に、理科教師の間延びした声が響く。 「えー、池の水には、さまざまな微生物たちがひそんでいますね。今、見てもらっているプランクトンは各班、違うものを用意したので、あとで正解を聞きますよ。みなさん、確認できていますか?」  一つの顕微鏡を、五人のメンバーでまわして見る。るりの番になったので覗くと、そこには触角を「抱っこして!」とせがむように伸ばしている可愛いプランクトン──ミジンコがいた。 (たしかに少し、可愛いかも)  ちょこちょこと細かく動く触角で、ミジンコは次第にフレームアウトしそうになる。何とも活動的な生物に関心しながら、るりはノートにミジンコに関する観察記録を記した。可愛い、とは、さすがには書かなかったけれど。  そんなふうにノートに書き込んでいたら、となりのテーブルから、男の子の大きな声が聞こえてきた。 「なぁ中曽根、これゾウリムシだよなー? な、な?」  苗字のとおり、声も体格も大きい大谷圭介(おおたに けいすけ)だった。明るいクラスのムードメーカーである彼と、悠は仲が良い。顕微鏡を覗いていた悠は、肩を揺すられていた。 「バカ、見てるときに肩揺するなって、危ないだろ。それにこれ、ミカヅキモじゃないか?」 「お前までミカヅキモ派か!」 「なんだよ、その派閥は」
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