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二人の会話に、るりは笑いそうになる。それは梢も同じだったようで、後ろを振り返らないようにして、るりに小さく囁いた。
「相変わらず、大谷は元気だよね」
「あはは。うん」
るりは微笑んで、大谷を見る体で悠を眺めていた。すると、たわいもないジョークで少し悪のりをした大谷が、悠の消しゴムへと手を伸ばしていた。
「そんなにミカヅキモが好きならここに『ミカヅキモ』って書いてやる! 植物プランクトンと結婚でもしちまえ」
「はあ? なんだよ、それ」
「はっはっは。この消しゴムを使いきれば、ミカヅキモとの恋が実るぞ。良かったな中曽根。しあわせになれよ」
「消しゴムのおまじないって……阿呆くさ」
悠の口から「消しゴムのおまじない」というフレーズが出てきて、るりの心臓が跳ねた。
あの時のるりの挙動不審の原因が何だったのか、悠は気づいてはいないはず……と、るりは考えていた。なぜなら悠はけっこう鈍感で、女の子たちにわりと人気があることとか、悪気があってされたことにも気づいてなかったりするからだ。
でも、今の大谷とのやりとりで気づかれたら──?
消しゴムを奪い返したあの日から、一週間が経っていたため、もう忘れていますように……と、るりは祈るしかない。
そんなるりの心の動揺を置いてけぼりにして、授業はすみやかに進行される。また、教師の声が響いた。
「見えていますか? すごいでしょう。私たちの身の回りにも、こんなにもたくさんの微生物がいるんですよ。見えないだけで、たくさんの生物がそこには存在しているんです」
見えないだけで存在するもの──そんなものは、ごまんとある。
そんなことでも言いたげな言葉がまるで、自分が書いた消しゴムのおまじないを言い表しているように感じて、るりは身を縮こませるしかなかった。
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