1 片恋消しゴム

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 そんな、少しだけハラハラした授業も終わると、先生の「理科係の人は残って、片付けてくださいね」と指示する声を聞きながら、るりは理科室を出た。  チャイムが鳴り、みんながお待ちかねのランチタイムとなる。  いつものように梢が弁当を携え、るりの席へやって来た。その時、ようやく大切な忘れ物があることに気がついた。 「あ、ペンケースがない……」  ぽそりとしたつぶやきに、机を引っつけようとしていた梢が顔を上げる。 「もしかして、理科室に忘れてきちゃったの?」 「そうみたい。梢ちゃん、ごめん。先に食べてて」 「一緒について行こうか?」 「ううん、大丈夫。すぐに戻ってくるね」 「わかった」  梢を巻き込むことが申し訳なくて、るりは一人で理科室へ向かうことにした。室内では、他のクラスメイトたちもおのおのに席移動をしていて、誰がどこにいるのかわからない状況だ。  そんな教室を後にして、特別教室がならぶ別校舎へと向かった。  渡り廊下でつながっている特別教室棟には、理科室以外にも美術室、視聴覚室、音楽室などが集まっている。ランチタイム中の今は人気もなく、静けさだけがるりを迎え入れてくれた。  ペタペタと鳴るスリッパの音と、遠くからのみんなの喧騒だけが、特別教室棟の廊下に響く。  理科室へ着くと、引き戸を静かに開けた。  中にはもちろん、誰もいない。先ほどは一年二組で賑やかになっていた理科室も、水を打ったような静寂に心地よく休んでいるようだ。 「えっと……あ。あったあった」  べつに声を出さなくても良いのだけれど、あまりの静けさに、るりはわざと声を出しながら忘れ物を取りに行った。  ついさっき使っていた廊下側のテーブルに、るりの水玉模様のペンケースがぽつりと置かれていた。  それに手を伸ばしながら、るりは「私、机の上に置いたっけ?」と小さくつぶやく。 (たしか、机の下の棚に置いたから忘れたような……)  そんな疑問も頭をよぎったが、それよりも無事にペンケースを手にできたことにるりはホッとした。このペンケースには、大切なあの消しゴムが入っているのだから。 (まあいっか。梢ちゃんも待たせているし、早く行こう)  そのまま理科室を出て行った。  友人を待たせていることと、ペンケースを取り戻せた安堵で、るりは気がつかなかったのだ。  すんなりと開いた、施錠もされていない理科室。  その中に、誰かが隠れていたかもしれない──などと、いうことには。
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