7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
囁き
——向かいのデスク。ディスプレイ越しに左眼でこちらを見ながら。
「最近、40代の女優が気になるんです。なんか、いいですよね」
「そうなんだ〜。私もそういう女になれたらいいんだけどな……」
「小島さん、かなり近いんじゃないですか」
(二十も歳の離れた男が、まっすぐこっちを見て、真面目に言う。透き通った肌、すっと目尻に向かって切れた眼、形のいい鼻、唇。)
——コピー機の前。右側に気配。
「小島さん、髪切りました?」
「はい」
「…素敵です」
(うまい返しができない。冗談めかして言ってくれたら気が楽なのに。)
——デスクにて。
「いや〜もう今日は疲れた…眠いわ」
「はい。これうまいっすよ」
「チョコレート! うわ、ありがとう」
(差し出された手。白くて長い指に貼りついたm&mを剥がして自分の手のひらに移す。)
——昼どきの給湯室。
「今度の日曜、ぼく森ノ宮公園のグラウンドで草野球の試合があるんですよ」
「森ノ宮かあ…ちょっと遠いなあ」
「えー、観にきてくれないんですかあ? 寂しいなあ」
(え、ほんとに観に来てほしいの? 私に? まさか。)
最初のコメントを投稿しよう!